「Box」vs.「Dropbox」――独立系クラウドストレージの覇権争いはどうなる? 機能の進化から戦略を読み解く(2/3 ページ)
独立系クラウドストレージとして、国内外で多くのユーザーを抱える「Box」と「Dropbox」。両社にはどのような強みと弱みがあり、互いに勝つためにはどんな取り組みが必要なのか。近年の機能追加をもとに、両社の戦略と展望を読み解く。
強固なセキュリティもBoxの特徴
Boxがコンテンツ管理プラットフォームを目指す上で、もう1つ重視しているのが、情報流出を防ぐためのセキュリティ強化だ。Boxはこれまで、多要素認証機能、きめ細かなアクセス制御機能、機械学習技術によって不審な操作を自動検知する機能――などを実装してきた。データや通信経路の暗号化にも対応しており、CASB(Cloud Access Security Broker)ツールなど、他社のセキュリティソリューションと連携するためのAPIも用意されている。既に情報漏えい対策ツールの「CipherCloud」「Cloud App Security」などが「Box Apps Marketplace」に登録済みで、すぐにBoxと連携して利用できる。
2月13日にリリースした「Box Relayを使用した自動分類」機能も、その戦略の一環だ。これは、同社のセキュリティサービス「Box Shield」に含まれる、コンテンツを内容別に分類してセキュリティポリシーを一括設定できる機能と、Box Relayのワークフロー機能を組み合わせたもの。ユーザーはBox Relay上で稟議を起案する前に、回覧する書類のセキュリティポリシーを一括設定できるようになった。
Boxはこのように、自社でコンテンツ管理のセキュリティを強化しつつ、外部のセキュリティ機能を取り込める体制を採ることで、金融機関や公共機関など規制の厳しい組織での採用につなげている。
Dropboxは「スマートワークスペース」に注力
一方のDropboxでは、Dropboxアプリにとどまったまま、さまざまな外部アプリを立ち上げて作業ができる仕組み「スマートワークスペース」の強化に力を入れている。その一環として、19年9月に新たなユーザーインタフェース「Dropbox Spaces」をリリース。Dropboxの中でコンテンツをクリックすると、Dropbox内で「Microsoft Office」「G Suite」など180種類以上のアプリケーションのコンテンツをプレビュー機能で確認しながら、コメントやフィードバックを追加し、他のユーザーと共有できる仕様にしている。
また19年末には、複数のユーザーがリアルタイムで共同編集できるドキュメントツール「Dropbox Paper」を、Dropboxのファイルシステムと統合した。同社はこれまで両ツールを別個に提供していたが、統合後はDropboxアプリからPaperドキュメントの作成、保存、アクセスが直接できるようになっている。Dropbox Paperは、単なるドキュメントの共同編集ツールではなく、参加するメンバーがアイデアを出し合いながら共同作業をするワークスペースとして提供されており、特に日本でも数多くのユーザーが利用しているという。
ワークフロー機能やセキュリティ面に関しては、DropboxのB2B市場における戦略はBoxと似ている部分も多い。例えばDropboxは、19年1月に電子署名サービスを提供するHelloSignを買収し、ワークフロー機能を強化している。M&A以外での外部連携も積極的に行っており、「DocuSign」や「Adobe Sign」など実績ある他社サービスも利用可能にしている。このようにDropboxでは、自ら企業向け機能の強化も行うが、便利な他社ツールがあれば、それをDropboxの中で使えるようにする取り組みも重視している。
Dropboxのセキュリティに関しては、情報セキュリティ管理のフレームワークを確立し、サービスインフラの安全性や、信頼性を高めるところに力を入れている。情報セキュリティ標準の「ISO27001」や米国のHIPAA(Health Insurance Portability and Accountability Act、医療保険の携行性と責任に関する法律)などの規格や規制に準拠している点は、Boxと同様だ。さらに信頼性と安全性を担保するために、定期的にアプリケーションやネットワークの侵入テストも実施している。
また、バグバウンティ(脆弱性報奨金制度)にも投資しており、既に100万ドル以上の報奨金を支払い、脆弱(ぜいじゃく)性の対策も行っている。
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