新型コロナの影響で増えるオンライン記者会見、取材しやすさの裏にある懸念とは
新型コロナウイルスの感染拡大に伴って、記者会見を中止し、ライブ配信に切り替える企業が増えている。記者としては、自宅で取材できるメリットがある一方で、気になる点も見えてきた。
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、記者がテレワークを始めてから約3週間がたった。以前のコラムでも紹介した通り、自宅だと作業環境がやや不便なものの、取材や記事の執筆といった基本的な業務は普段と変わりなくできている。
一方で、少し気掛かりなのが企業の記者会見だ。多くの企業は現在、コロナ対策の一環で報道陣を集めた会見を中止する代わりに、その様子をライブ配信している。会場への移動の手間が省ける一方で、オンライン会見ならではの気になる点も見えてきた。
遠隔での記者会見は、取材を受ける企業側が(1)プレゼンテーションや説明の模様を動画で配信する、(2)配信をいったん休止し、電話やメール、チャットなどで報道陣からの質問を受け付ける、(3)配信を再開し、登壇者や広報担当者が質問に回答する――という流れで行うことが多い。
まず、撮影に関していうと、現地に行けないので登壇者の息づかいが伝わるような写真を撮れないという点がある。企業がプレゼン資料やオフィシャルのスチール写真のデータなどを用意する場合もあるが、できれば記者自身で撮影した写真を使いたい所だ。
それ以上に気掛かりなのが、質疑応答だ。記者は、ライブ配信による記者会見の広がりが、取材を受ける企業とメディアの関係性に変化をもたらしそうだと考えている。
オンライン記者会見では“生の声”が聞けない?
普段の記者会見における質疑応答は、企業と報道陣との“真剣勝負”の場。報道陣はいつも、入念に下調べして会見に臨み、当日初めて発表された内容についてはその場で質問を練り、登壇者に疑問をぶつける。
登壇者側も想定問答は準備しているだろうが、基本的には質問者の意図をくみ取り、その場で内容を考えて回答する。だからこそ、ポロっと本音が出たりして、通り一遍ではない生身の人間としての意見を聞けていた。記者がそうした発言を記事に盛り込むことで、読み物としての面白さも増すといえる。
だがライブ配信では、企業が報道陣からの質問をいったん預かり、回答する質問を選ぶという手順がある。どういった基準で質問を選んでいるのかが不透明で、企業側が回答を用意する時間も発生する。ライブ配信という形態を取っているものの、従来の記者会見の“ライブ感”が損なわれてしまっているといえる。
なるべくリアルタイムに近い形で回答しようと試みる企業もあったが、チャットツールに不具合があって質問内容が反映されなかったり、投稿から反映までにタイムラグがあったりというトラブルもあった。どうしても、対面のようにスムーズにいかないというもどかしさは残る。チャットなどで質問を送る場合は、送信のタイミングが重なり、複数の媒体で質問がかぶってしまうケースもある。
もちろん企業側にも、会場をキャンセルしたり、“無観客”でプレゼンを行ったり、ライブ中継サービスを準備したり、大勢の報道陣の視聴に耐えうるITインフラを確保したり――と、多くの負担が掛かっていることは想像できる。新型コロナの感染拡大が懸念される状況下でも、会見を開いてくれることには感謝したい。
こうしたオンライン会見の動きは、今後も広がっていく可能性は十分にある。記者会見における企業とメディアのより良い在り方については、これからも両者で考えていく必要があるだろう。
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