配信サイトのPVは10倍に──新型コロナで漫画無料公開、秋田書店が狙う“脱・漫画離れ”
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、政府が全国の学校に休校を要請したことを受け、出版各社が漫画をネットで無料公開している。読者獲得の追い風となったのか、秋田書店などに反響や今後の取り組みを聞いた。
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、政府が全国の学校に休校を要請したことを受け、出版各社が漫画雑誌や単行本を無料で公開し、反響を呼んでいる。その中の1社、秋田書店では、公開前と比べると配信サイトのPV(ページビュー)が約10倍、UB(ユニークブラウザ)は約2〜3倍に伸びたという。
同社では、この盛り上がりを一過性のものでは終わらせないという思いがある。漫画雑誌「週刊少年チャンピオン」の武川新吾編集長は「若年層が毎週当たり前のように週刊少年誌を読む環境ではありません」と危機感をあらわにする。今回の無料配信は、読者獲得の追い風となるのか。反響や今後の取り組みを聞いた。
配信サイトのPVは約10倍、UBは約2〜3倍に
秋田書店は3月4日、「弱虫ペダル」などを連載している週刊少年チャンピオンを、漫画配信サイト「マンガクロス」で無料で公開。31日まで配信する予定だ。同社の宣伝担当者によると、公開前の平均と比較して同サイトのPVは約10倍、UBは約2〜3倍に伸びた。特に女性ユーザーが増加した他、学生のアクセスが増えた影響からかユーザーの平均年齢が下がった印象もあるという。
同社では、これをきっかけに若年層の読者獲得に一層取り組む考えだ。その背景には若者の漫画離れがある。同誌の武川編集長は「若年層でも手に取れるエンタメが多様化しているため、自分たちが10代だった頃とは状況が異なります。若年層が毎週当たり前のように週刊少年誌を読む環境ではありません」と危機感を募らせる。
今回の無料公開について、武川編集長は「週刊少年チャンピオンを読んだ経験がない、知らない若年層に実際に先入観なく誌面を読んでいただき、漫画に対して楽しさやポジティブな印象をもっていただけるきっかけになっていれば」と話す。
「無料公開で初めて誌面を目にした新規の読者にこれからも読んでいいただくことを目指し、若年層のカルチャーや思考、風俗を意識した連載作品やプレゼント施策を展開していく準備をしています」
既に同誌では、10代に人気のゲーム実況動画制作YouTuber「○○の主役は我々だ」さんとコラボレーションした漫画「魔界の主役は我々だ!」の連載を1月にスタート。今後も作品を紹介するプロモーションビデオをTwitterで展開するなど、読者との接点づくりに積極的に取り組む。
大きな反響、読者獲得につなげられるか
秋田書店以外の出版社でも、無料公開は反響を呼んでいる。KADOKAWAでは、無料公開した漫画雑誌20誌85冊のPVが、公開前週の平均より2倍以上増えたという。従来の値引きやポイントバックキャンペーンでは、電子書籍を多く購入しているユーザーの利用率が高かったが、今回は過去のキャンペーンでは反応が薄かったライトユーザーや、若年層のユーザーも取り込めたという。
同社の広報担当者は「これまでの電子書籍の購買行動は、ユーザーが読みたい作品をピンポイントで購入するという動きがメインでしたが、(無料公開によって)暇なときに読書を楽しむというスタイルも増えました」と説明。「この変化を、単品購入だけでなく定額読み放題サービスの利用へもつなげていきたいです」としている。
小学館は「月刊コロコロコミック」などを無料で配信し、電子漫画ストアの3月2〜11日のPVが前月(2月2〜11日)から約2倍以上に増加。公開初日(3月2日)のPVは過去最高を記録したという。アクセスの時間帯は公開前と同様に午後10時〜11時がピークだが、平日昼間のPVが増えたとしている。
白泉社も漫画雑誌「花とゆめ」「LaLa」などを無料で配信。公開初日(3月5日)を前月同日(2月5日)と比較すると、電子書籍ストアのPVは約12倍、スマホアプリのDL数は約18倍だったという。
今回の無料公開は、学校が休校になった子どもたちだけでなく、不要不急の外出を控える大人にも影響があっただろう。物心ついたときからさまざまなエンターテインメントに囲まれている若年層にとって、漫画の魅力はどのように映るのか。各社の取り組みは続く。
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