「ひっ迫した状況が一目瞭然」新型コロナ病床数まとめサイト、大反響に「バグを疑った」と開発者仰天 “医療現場の声”励みにスピード公開
新型コロナウイルス感染症の患者数や、感染者用の病床数などを都道府県ごとに表示した「新型コロナウイルス対策ダッシュボード」がネットで話題に。開発者の福野泰介さんに経緯を聞いた。
新型コロナウイルス感染症の患者数や、感染者用の病床数などを都道府県ごとに表示した「新型コロナウイルス対策ダッシュボード」が、ネットで話題を呼んでいる。Twitterでは「病床の使用率が一目瞭然」「都市部の病床数がギリギリなのが分かる」と好評だ。Facebook上のシェア数は4000近くあり、開発者の福野泰介さんは「バグを疑ったくらいです」と驚く。
福野さんは、福井県鯖江市のソフトウェアメーカー「jig.jp」の会長を務める傍ら、東京都が開設した「東京都新型コロナウイルス感染症対策サイト」や、無償で提供されているオンライン教材やテレワーク用のサービスをまとめた「VS COVID-19 #民間支援情報ナビ」の作成にも携わっている。病床数に特化したサイトを作成した経緯を、福野さんに聞いた。
サイト作成は1週間、「医療現場からの意見が励みに」
福野さんが3月中旬に公開した新型コロナウイルス対策ダッシュボードでは、感染者用の病床数、患者数の他、病床の使用率を算出し、全国・都道府県別に表示している。累積退院者数や死亡者数、PCR検査陽性者数もまとめており、患者数に対して病床数が不足している状況が一目で分かる。
サイトの作成に着手してからリリースまでにかかった期間は1週間ほど。PDFからテキストを抽出できる「Poppler」を使い、厚生労働省が公表しているPDFデータから病床数や患者数などを抽出し、JSONデータ化。1時間ごとにPDFデータをスクレイピングし、PDFの更新があれば自動的にコードに反映する仕組みにした。サイトのソースコードはGitHubで公開し、コメントや修正提案を受け付けている。
作ったきっかけは、東京都と非営利団体Code for Japanが3月上旬に「東京都新型コロナウイルス感染症対策サイト」を開設したことだった。同サイトはソースコードをGitHubで公開し、誰でも修正を提案できるオープンソースの取り組みだ。全国で派生サイトも誕生している。
福野さんもCode for Japanのメンバーの1人として、都のサイトや派生サイトの作成に携わっていた。そうした中、「厚生労働省が発表しているデータをまとめられないか」という提案があり、厚労省が公開する患者数などのPDFデータのJSON化を始めた。その後、同省が都道府県別のPDFデータも定期的に公開するようになり、それらのデータをタイル状に並べた「カラム地図」を使った一覧アプリを開発した。
病床数を明記するようにしたのは、3月18日に福井県で初めて感染者が出たことが発端だった。県の発表内容に感染症の病床に関する言及があり、福野さんは「これからは病床数がポイントになるのでは」と考え、厚生労働省の病床に関するデータを検索。データをスクレイピングしてJSONデータ化し、サイトに反映した。
当初は福井県の発表に合わせ、感染症病床数の合計に結核の病床数も含めていたが、医療関係者からアドバイスを受け、感染症病床のみの表示に切り替えた。こうした助言もあって改善が進み、都市部を中心に病床が不足している状況が浮き彫りになった。
福野さんは「自分が感染症に詳しいわけではないので、自分の理解が合っているかどうかの判断がつかない点が大変でした。Code for Japanのメンバーとの情報交換や、医療現場の方からの意見が励みになりました」と振り返る。
サイトの公開後、GitHub上では誤字訂正の依頼が1件、大画面だとデザインが崩れてしまうという報告が1件寄せられた。福野さんは「イシュー、プルリクエスト、歓迎です」という。
全国に広がるオープンソースの輪
福野さんは、福井県や鯖江市と連携して以前からオープンデータの活用に取り組んできた。2013年には県で開催されるイベントのデータを使ったアプリを開発し、オープンソースとして公開。14年には市と共同で、自治体が持つExcelデータをWebサイトからアップロードすると、RDF形式に変換して公開できるオープンデータプラットフォームも開発した。
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、東京都のサイトをはじめ、オープンソースの取り組みが全国に広がっている。福野さんは「オープンソース、オープンデータ、シビックテックの力を、いよいよ本領を発揮する時だと感じています」と語る。「福井県庁とともにオープンデータを使ったアプリを公開してから7年、『継続は力なり』です」と今後の広がりにも期待を寄せている。
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