京大、記憶が消える仕組みの一端を解明 光とイソギンチャク由来の成分でマウスの記憶を消去
京都大学の研究チームは、光を使ってマウスの記憶を消すことに成功し、記憶が消える仕組みの一端を解明したと発表した。イソギンチャク由来のタンパク質をマウスの脳に埋め込み、光を当てると記憶が消えていることを確認できたという。
京都大学の研究チームは11月15日、光を使ってマウスの記憶を消すことに成功し、記憶が消える仕組みの一端を解明したと発表した。イソギンチャク由来のタンパク質をマウスの脳に埋め込み、光を当てたところ、マウスの記憶が消えていることが確認できたという。
記憶は脳の一部である海馬で短期的に保存された後、皮質で長期的に保存される。この現象は「記憶の固定化」と呼ばれるが、それを担う細胞活動は解明されていなかった。細胞単位の記憶の現象には、細胞間の神経活動の伝達効率が上昇する「シナプス長期増強」(LTP)があり、記憶は、LTPが誘導された細胞で作られると考えられている。
そのため、LTPが誘導される細胞と時間を調べることで、記憶を持つ細胞と保持した時刻が分かるという。しかし、これまでその現象を調べる技術がなかったことから、研究チームはLTPがいつどこで起きているかを検出する技術を開発。それを使い、記憶の固定化中にLTPが誘導される細胞とその時間を特定するための研究を始めた。
研究では、イソギンチャク由来のタンパク質で、光を当てると周囲のタンパク質を不活性化する特性を持つ「光増感蛍光タンパク質」を使い、光によってLTPを消去する方法を開発。マウスの神経細胞内でこのタンパク質が産生されるようにした上で、海馬の細胞だけに光が当たるよう脳に光ファイバーを差し込んだ。電気刺激を与えることによる記憶タスクの前後で光を照射したところ、刺激(記憶)後2〜20分の間に照射した場合は記憶が消えていたという。
この実験を脳のさまざまな場所で行ったところ、学習の直後やその後の睡眠時、その次の日の睡眠時で、それぞれ脳の異なった部位で細胞が記憶を持つようになることが明らかになった。今後、記憶に関する多くの脳機能を細胞レベルで解明することができる可能性があり、記憶障害を生じる病の治療法などにつながることも期待できるという。
この研究成果は、国際学術誌「Science」に11月12日付で掲載された。
【修正履歴:2021年11月17日 午後7時30分 本文の一部表現を修正しました。】
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