天の川の中心にある巨大ブラックホール、初めて撮影に成功 国立天文台など
国立天文台などが参加する研究チームが、太陽系が属する銀河である「天の川銀河」の中心にある巨大ブラックホールの撮影に初めて成功したと発表した。
国立天文台などが参加する国際研究チーム「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)・コラボレーション」は5月12日、太陽系が属する銀河である「天の川銀河」の中心にある巨大ブラックホールの撮影に初めて成功したと発表した。今回撮影した画像により、この天体がブラックホールであるという証拠が初めて得られたという。
今回観測したブラックホールは「いて座Aスター」と呼ばれ、地球から約2万7000光年の距離にある。ブラックホールは光を放たない天体のため、直接見ることはできない。しかし、その周囲には明るいガスが存在し、それがブラックホールの重力によって、リング状に引き寄せられる。結果、その中心に「シャドウ」と呼ばれるブラックホールの影が映し出され、ブラックホールの輪郭を確認できる。
撮影のため研究チームでは、世界各地の8つの電波望遠鏡を結び、観測ネットワークを作った。数日かけて観測し、カメラで長時間露光するように何時間もかけてデータを取得したという。
天の川銀河中心の巨大ブラックホール いて座Aスターの電波観測画像(クレジット:NASA/JPL-Caltech/ESO/R. Hurt(天の川銀河の想像図)、Cho et al.(EAVNの画像)、EHT Collaboration(EHTの画像))
大きさが異なるブラックホールを比較可能に、さらなる研究成果にも期待
研究チームでは2019年にも、おとめ座銀河団の楕円銀河「M87」の中心にある巨大ブラックホールの撮影に成功している。M87は5500万光年かなたに存在し、いて座Aスターの1000倍以上の質量を持つが、2つのブラックホールの見た目は非常によく似ているという。
いて座Aスターは、M87よりもはるかに近い距離に存在するが、その撮影はM87よりも難しかったという。ブラックホールの周りにあるガスは、光速に近い速度でその周囲を運動し、M87の場合は、ガスがブラックホール周りを1周するまでに数日から数週間かかった。しかし、いて座Aスターはわずか数分で1周するという。
これは、ガスの明るさや模様がより激しく変化することを意味する。EHTの研究者であるチークワン・チャンさん(米アリゾナ大学スチュワード天文台、天文学科、データサイエンス研究所)は「それはまるで、自分の尻尾を素早く追いかける子犬の鮮明な写真を撮ろうとするようなもの」と説明する。
このため、研究チームはいて座Aスター周囲のガスの運動を考慮した、新しいデータ処理の手法を開発。研究チームに所属する80の研究機関の300人以上の研究者が連携し、いて座Aスターの画像化に成功したとしている。
今回の成果により、大きさの全く異なる2つのブラックホールの画像を得ることに成功し、2つのブラックホールを比較、対比することが可能になった。すでに、ブラックホールの周りにあるガスの振る舞いに関する理論やモデルのさらなる検証も始まっており、銀河の形成と進化の解明につながることが期待されている。
研究チームは、今後EHTの観測ネットワークがさらに拡大していくことで、より素晴らしい画像やブラックホールの動画を近い将来公開できるとしている。
この研究成果は、米国の天体物理学専門誌「アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ」特集号に5月12日付で掲載された。
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