死んだクモを再利用、UFOキャッチャー化 足を強制的に開閉する改造でスパイダーグリッパーに:Innovative Tech
米ライス大学の研究チームは、死んだクモの体を再利用し、クモの動きのメカニズムを利用したロボットグリッパーを開発した。クモの死骸に注射針を刺し、そこから空気を注入することで脚の開閉を機械的に行い、物をつかみ取る。
Innovative Tech:
このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
米ライス大学の研究チームが開発した「Necrobotics: Biotic Materials as Ready-to-Use Actuators」は、死んだクモの体を再利用し、クモの動きのメカニズムを利用したロボットグリッパーだ。クモの死骸に注射針を刺し、そこから空気を注入することで脚の開閉を機械的に行い、物をつかみ取る。
クモが死ぬと全ての脚が内側に丸まることが知られている。これは生前に脚を筋肉で動作させているのではなく、液体をエネルギー媒体にした油圧式によって動かしているからである。クモの脚には人間の上腕二頭筋や上腕三頭筋のような拮抗する筋肉がなく、脚を内側に縮める屈筋だけがあり、前足部で発生する血圧によって脚が外側に伸びるようになっている。
研究チームはこの特性を生かし、死んだクモに圧力をかけ強制的に足を開閉することを考えた。血圧の代わりに、空気が入った注射器を用いて簡易的な油圧システムを構築する。
実装はクモを低温で安楽死させることから始まり、クモの吻(口先)に注射器の針(25ゲージの皮下注射針)を刺し、刺し込んだ入り口付近に接着剤を使って針を固定して行う。
このように手術を行った後、注射器から空気を送ると脚が開き、反対に抜くと脚が丸まるといった動きが発動する。すなわち、流体駆動アクチュエータになるわけだ。少量の空気注入で瞬時に脚が開くという。
この機械的な動きを利用して、ロボットグリッパーのように物を把持し持ち上げる実験をしたところ、0.35mNのピーク把持力を発揮して自重の1.3倍以上の物を持ち上げることに成功した。
また開閉運動を1000回繰り返したところ多少の摩耗しか見られなかったことから、その強固性を示した。しかし脱水によるクモの死後、壊死したグリッパーの機能期間は約2日であり、時間とともに関節がもろくなり機械的破壊の影響を受けた。
そこでクモの体に水蒸気を通さないコーティング(蜜ろう)を施し、水分の損失を抑えることで、ロボットグリッパーの寿命を延ばすことができると考え、クモの体に水蒸気を通さないコーティングを施した。
コーティングしていないクモと10日間の質量変化を比較した結果、コーティングされていないクモは、コーティングされたクモに比べて17倍も質量が減少していると分かった。この発見により、脱水を防止しながら関節の柔軟性を維持し、その結果ロボットグリッパーの寿命を延ばすことができることが確認された。
現在は全部の脚の開閉運動しか駆動させられないが、今後の課題としてそれぞれの脚を個別に動作させたいという。
Source and Image Credits: Te Faye Yap, Zhen Liu, Anoop Rajappan, Trevor J. Shimokusu, and Daniel J. Preston “Necrobotics: Biotic Materials as Ready-to-Use Actuators”
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