バブルはもう終わり? SaaSスタートアップがいま知りたい資金調達の基礎知識 新局面の戦い方は(2/2 ページ)
拡大が続くSaaS市場。今から参入したいスタートアップが、資金調達する上で気を付けるべき点とは。ヤプリCFOへの取材から探る。
上場後を見据えたファイナンスの重要性 激動のSaaS市場での戦い方
注意すべき点は他にもある。その一つが上場に対する考え方だ。「未上場の人はIPOまでのファイナンスとIPO後のIRを区別して考えがち」と角田さん。しかしこれらは地続きで、それぞれに対し、会社のファイナンスを分断するものと捉えるべきではないという。
「本来は『上場後にこうなるから、上場直前や未上場のときのファイナンスはこうだよね』という逆算ができる。しかし中にはIPOをゴールと考え、そこから逆算してファイナンスを組み立てて、上場後は“出たとこ勝負”という人もいる」
IPO前後を地続きに捉えるべき理由は、SaaS企業を巡る投資市場の現況にある。日本において、SaaS企業が上場し始めたのはここ数年の話だ。つまり現状は過渡期といえる。
そのため上場後の資金調達を巡る環境も目まぐるしく変わっており「未上場の目線のまま行くと、上場後に全く違うルールのゲームの洗礼を受ける」(角田さん)。上場後を視野に入れておかなければ、無理をしたときのしわ寄せがいつ来るか、判断しにくくなるという。
「ファイナンスはどこかで分断されているわけではなく、全部がつながっている。IPOが遠ければ遠いほど関係ない部分もあるが、その場合も距離が遠いから修正が効くという話であって、とにかく地続きなのは変わらない」
未上場/上場後のファイナンスの違い 角田さんの見てきた失敗例
実際、未上場時と同じ感覚で上場して失敗した例を、角田さんも見たことがあるという。これらの失敗には共通点があった。それはエクイティファイナンスにおける未上場時と上場時の資金調達の方法の違いだ。
「未上場までは基本、発行体(企業)の言い値。発行体が100億を提示して、リード投資家がOKといえば成立する。一方で、上場株は大多数の株主からOKをもらわないといけない。未上場のときは『この人が100億でいいといってました』という状況でも、上場後は他の人も同意を取れる額でないと収束しない」
この事情を踏まえ、上場時の株価が大多数の株主に受け入れられるのか、未上場時にも意識しておかなければならない。そのためには、未上場時から上場後を見据えた考え方が必要になるわけだ。
「本来SaaSのみに限った話ではないが、今の環境においてはSaaSが特にこの辺りの調整を求められるので、特に理解が必要と感じている」(角田さん)
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