プラチナ主成分の新鉱物「苫前鉱」 東大の研究チームが北海道で発見
東京大学物性研究所は、北海道苫前町で採集した白金族元素の粒子である「砂白金」からプラチナを主成分とする新種の鉱物を発見した。この鉱物を「苫前鉱」と命名。この成果はプラチナが天然でどのように存在しているかを示す、重要な手掛かりになるという。
東京大学物性研究所は9月8日、北海道苫前(とままえ)町で採集した白金族元素の粒子である「砂白金」からプラチナを主成分とする新種の鉱物を発見した。同研究所は、この鉱物を「苫前鉱」(とままえこう、学名:Tomamaeite)と命名。触媒や電極など工業的に重要な役割を持つプラチナが天然でどのように存在しているかを示す重要な手掛かりになるという。
研究チームは北海道北西部を探索し、計8カ所で砂白金の採取に成功した。そのうち苫前鉱は、苫前町の海岸で採集した砂白金に最大20μm程度の微細粒子として含まれていたという。この化学組成を分析したところ、プラチナと銅が1:3の比率で含まれていると判明。そのような化学組成をもつ鉱物はこれまで知られていなかったという。
さらに詳細に調べるため、鉱物の結晶構造解析を実施。20μm程度以下の鉱物の結晶構造を分析は一般的に困難だが、研究チームは透過型電子顕微鏡を使うことで結晶構造解析に成功した。その結晶構造は、立方体の角にプラチナを置いて各面の中央に銅を置いた姿になるとしている。
日本では明治中期に北海道で砂白金の産出が初めて確認できた後、しばらくは砂金に混じる不純物として廃棄されていたという。その後大正期に利用法が分かったことから、積極的に採掘されるようになった。しかし、戦時中に触媒の原料とするため大量に採取され、北海道の砂白金は消費尽くされた。
この影響で近代では国産の砂白金の研究試料が手に入りづらく、どのような鉱物で構成されているのかなど、研究があまり進んでいなかった。研究チームは希少な砂白金鉱床を探し、苫前鉱の発見に至った。また、北海道の砂白金は40種を超える白金族鉱物を含むことなども判明したとしている。
プラチナは天然の鉱物から抽出されたもので、装飾品や工業分野での触媒など多方面で利用されている。そのためプラチナがどういう鉱物にどのように存在するかは、鉱物学上で重要な課題であり、資源の在り方を考える上で社会的にも重要になる。研究チームでは今後、これらの解明や未知の鉱物の発見に取り組んでいく方針。
研究の成果は9月8日付の日本鉱物科学会が発行する学術雑誌「Journal of Mineralogical and Petrological Sciences」に掲載された。
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