機能表よりも世界観のほうが大切だ マネーフォワード クラウド会計 vs. freee会計(後編):クラウド会計SaaS対決(2/5 ページ)
クラウド会計という分野では必ず比較されるMFクラウドとfreeeであるが、「会計ソフト」という言葉で一括りにすることができないほど、思想や世界観は異なっている。本稿では両者の機能比較に加えて、その背景にある思想やターゲットなどをひも解いていく。
特徴は「取引」の概念
freeeの大きな特徴は「取引」という独自の概念を採用していることだ。通常の会計ソフトは仕訳形式で入力するが、freeeは「取引」という枠組みの中で、発生と決済を入力することで1つの処理が完結する形式を採用している。例えば、10万円の請求書を発行した際は「売上 10万円」が収入の発生として記録され、翌月末に銀行を通じて10万円が入金された際にそれが決済されたとして記録される。基本的には発生と決済はワンセットであるため、発生後に期日を超えても決済がないものについては「未入金」であることが即座に認識できる。
仕訳データはこれらの「取引」の裏側で生成される。1つの「取引」について発生と決済で2本の仕訳が作られるかたちだ。複式簿記における仕訳の概念はあらゆる処理をシステマチックに記録できる非常に優れた仕組みである一方で、1つ1つの処理が完全に独立して存在しているため、前述のように未入金であるかどうかを仕訳だけを見て判断することはできない。
既存の会計ソフトでは、補助元帳を使って残高の推移を確認するか、請求書ソフトやExcelで入金有無を管理するなどの対応をしていたが、いずれもかなりの手間がかかっていた。freeeは「取引」という枠組みで発生・決済をワンセットにすることによって、入出金の管理を大幅に効率化したのである。
また、仕訳は会計知識がない場合にはかなりハードルが高い入力形式だが、「取引」という形であえて仕訳を裏側に隠すことでそのハードルを下げることにも成功している。仕訳のように柔軟に入力していくことができないため、複雑な取引を入力したい時は逆に手間がかかってしまうこともあるが、日常的な売り上げや費用を計上する際には「取引」で必要十分な対応が可能である。
これまでの会計ソフトは全て「仕訳入力が当たり前」であり、一定以上の会計知識がある人しか扱うことができなかったが、freeeはこれまで会計ソフトが切り捨ててきた層にまでアプローチすることに成功したのである。
一方で、ユーザーの裾野を広げたことによるトラブルも発生している。freeeの「取引」の入力画面は、一見、会計知識がなくても対応できそうに見える。しかしそこから生成された仕訳データを使って財務諸表が作成される。つまり、正しい財務諸表を作るには、仕訳プレビューをきちんと確認したり、B/S(貸借対照表)の残高を確認したりする必要があり、会計知識がなければきちんと確認し、理解することができない。
結果として、処理できているつもりになっていたが、期末にB/S・P/Lを確認すると滅茶苦茶になってしまっているケースも少なからず発生している。「freeeで日々入力しているから」ということで税理士が申告を引き受けてみると、全て修正が必要になって余計に手間がかかったという話もよくあるため、freee利用者の受け入れをNGにしている税理士も一定数存在する。
ただ、全ての税理士がfreeeをNGとしているわけではない。近年は「freee専門」を掲げる税理士事務所も増えており、「取引」の概念やfreee独自の機能などを丁寧に説明することで、freeeを活用し、申告だけでなくスモールビジネスの経営管理に活用できるような支援も提供している。
「freeeは会計知識がなくても使える」というメッセージは大きな誤解だ。ノーコードツールを正しく活用するためには、一定のプログラミングの素養が必要なのと同じである。会計知識の部分を専門家が支援をし、企業側は入力しやすいfreeeを使ってタイムリーにデータを登録することによって、リアルタイムで経営管理に必要なデータがfreee上に反映され、即座に経営判断を行うことができる。
請求書を発行し、別途仕訳として登録するのではなく、freee上で請求書を発行すればそのまま「取引」データが作成され、売り上げを認識し、翌月末に取り込んだ銀行口座の明細データと突合することで入金管理を行う。普通の会計ソフトとは全く違う流れで、発生から決済までがスムーズに処理することが可能なのがfreeeの強みだ。初期設定や登録した内容のチェックは税理士などの専門家にお願いすればいい。freeeは「取引」という概念を採用することで、会計ソフトの中でも独自のポジションを確立することに成功したのである。
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