「消える魔球」「曲がる魔球」が打てるエアホッケー 東工大などが技術開発:Innovative Tech
東京工業大学、NTTコミュニケーション科学基礎研究所、京都大学に所属する研究者らは、エアホッケーのパックを「消える魔球」のように意図的に見えなくする手法や、運動方向を「曲がる魔球」のように操作する手法を提案した研究報告を発表した。
Innovative Tech:
このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
東京工業大学、NTTコミュニケーション科学基礎研究所、京都大学に所属する研究者らが発表した論文「E.S.P.: Extra-Sensory Puck in Air Hockey using the Projection-Based Illusion」は、エアホッケーのパックを「消える魔球」のように意図的に見えなくする手法や、運動方向を「曲がる魔球」のように操作する手法を提案した研究報告だ。
打って高速に動くパックに追従した錯覚パターンを遅れなく投影することで、物理法則を無視したさまざまな状況を相手プレイヤーに知覚させる。
このシステムでは、高速プロジェクターと高速カメラをそれぞれ1台使用し、赤外画像を用いたパックの追跡を行う。高速プロジェクターには、1000fps以上で8bit階調投影が可能なもの(解像度1024×768)を使用する。高速カメラには、525fpsでモノクロ撮影可能なもの(解像度720×540)に可視光カットフィルターを装着したものを用いる。
高速プロジェクターと高速カメラは、ホッケーテーブルを上から下に向かって投影や撮影できるように上層部に固定する。追跡の対象となるパックには再帰性反射材マーカーを取り付ける。
またシステム遅延により投影画像と対象物体の間にズレが生じる問題を避けるため、対象が数フレームの間等速運動することを仮定した物理モデルと位置・速度からカルマンフィルターを用いて予測を行う。
このセットアップにより、打って高速に動くパックを追従しながら貼り付いたかのように投影し続けることが可能になる。今回は、この技術を用いて「消える魔球」と「曲がる魔球」を作り出す。
まず「消える魔球」の手法では、ストライプパターンの黒部分がパックに追従するように投影する。これによって、パックに光が当たらない状態を維持する。また、ストライプパターンの白部分は背景のテーブルを照らす。このとき、黒と白を交互に投影することで生じる輝度変化のフリッカーは、パターンが高速に移動することで知覚されない。以上により、ホッケーテーブルからパックだけが消えたような効果を再現できる。
実際にパックを打ち、高速に動くパックを不可視化できるかを検証した結果、相手プレイヤーがパックの位置を特定できない状態であることを確認できた
次に「曲がる魔球」に向けて、パックの運動方向や速度に対する知覚を操作する手法を提案した。これはパックを追従しながら、動く縞模様をパックのみに投影するものである。
実験の結果、パックの運動方向と垂直に動く縞模様を投影した場合、その運動方向が変化しているように知覚すると確認できた。また、平行に動く縞模様の場合、運動速度が変化しているように知覚した。
Source and Image Credits: Kengo Sato, Hiroki Terashima, Shin’ya Nishida, and Yoshihiro Watanabe. 2022. E.S.P.: Extra-Sensory Puck in Air Hockey using the Projection-Based Illusion. In SIGGRAPH Asia 2022 Emerging Technologies (SA ’22 Emerging Technologies). Association for Computing Machinery, New York, NY, USA, Article 3, 1-2. https://doi.org/10.1145/3550471.3558397
関連記事
- “玉”も“打つやつ”も全てARなエアホッケー 動的プロジェクションマッピングで
エアホッケーをAR化するに当たってこれまでできなかったこと。円盤を打つときに使う「あれ」。 - リモコン付きラケットで自在に魔球 東大と東工大が超音波卓球「Hopping-Pong」開発
オーグメンテッドスポーツの一つの形だという。 - ラケットで球を打った衝撃を“エアジェット噴射”で再現するVRデバイス 台湾などの研究チームが開発
台湾大学、カナダのUniversity of Waterloo、米University of Marylandによる研究チームは、卓球やバドミントン、テニスなどのラケットスポーツにおいて、球がラケットに当たった衝撃を圧縮空気のジェット噴射で再現するラケット型VR触覚デバイスを開発した。 - 卓球の正しいスイングを教えてくれるロボットアーム VR環境下でマンツーマン指導
早稲田大学中島研究室とQatar Universityの研究チームは、VRシステムとロボットアームを連動させた卓球トレーニングシステムを開発した。VR環境下でユーザーの手の動きを誘導することで、卓球の打ち方の練習を効率的に行い、スキルアップをサポートする。 - 2台のロボットを1人で同時に操作し卓球ができるのか? ソニーCSLと慶應大が実験
ソニーコンピュータサイエンス研究所などの研究チームは、1人のプレイヤーが2台のロボットアームを駆使し、2つのコートで同時に卓球をプレイするシステムを開発。1人が複数の身体を同時に操作できるかを検証した。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.