Apple減収減益でもiPhoneシェア拡大、「全員敗者のスマートフォン市場」:浦上早苗の中国式ニューエコノミー(3/5 ページ)
22年はグローバルでのスマートフォン販売台数が、過去10年で最低水準となった。また10〜12月期は強者Appleも減収減益となったが、グローバルでのシェアを伸ばしている。なぜだろうか。背景を紹介する。
世界最大のiPhone工場で従業員10万人不足
目算が狂ったのは、22年秋の新型コロナウイルスの感染再流行だ。世界のiPhoneの半分を生産する鴻海精密工業(ホンハイ)の鄭州工場で10月に感染者が出ると、同工場はゼロコロナ政策を理由に従業員の行動を厳しく制限した。
毎年夏ごろから季節労働者を雇用し、ピーク期には約30万人が働く同工場では、感染への不安と行動制限への不満で従業員が大量離脱。10月末には約10万人の欠員が生じた。鴻海は工場の正常化を急いだもの、22年末時点の稼働率は70%以下にとどまり、人気が高かった上位機種のiPhone 14 Pro、iPhone 14 Pro Maxの供給が滞った。
9月に新商品が発表されるiPhoneは、11月の独身の日(ダブルイレブン)、ブラックフライデー、12月のクリスマスシーズンまでが需要のピークだ。鄭州工場の混乱はAppleにとって最悪のタイミングだった。
鄭州工場の混乱は、生産の中国一極集中のリスクを改めて浮き彫りにした。中国メディアの報道によると、今回の騒動で鴻海はインドへの生産移転の加速を決断し、今後2年でインド工場の従業員を、現在の4倍である7万人に増やす計画を立てた。
鄭州工場での生産減少を補うため、江蘇省昆山工場でiPhone 14 Pro Maxを少量生産するようになった中国EMSの立訊精密工業(ラックスシェア)は、Appleの「脱中国」の要請に応じ、ワイヤレスイヤホンのベトナムでの生産を拡大している。
ただ、幅広い産業でグローバル企業との協業の歴史が長く、分厚いサプライチェーンが構築された中国からの移転は容易ではなく、最新鋭のiPhoneついては当面は中国に依存せざるを得ないだろう。
関連記事
- iPhoneだけではない、アップルジャパン140億円追徴課税の裏で暗躍する中国人転売ヤー
22年12月、アップルジャパンが消費税を追徴課税されたと報じられた。免税の対象にならない「転売目的の購入」を見抜けなかった責任を問われたとみられている。取り締まる当局と転売ヤーのいたちごっこはこれまでも繰り返されているが、今後、中国人転売ヤーはどうなるのだろうか。 - アリババ「独身の日セール」、初の「GMV非公表」の理由 〜海外メディアは「数字ないと報道できない」と困惑
中国の消費の勢いを体現してきたアリババグループのECセール「独身の日(別名ダブルイレブン)」が、開始以来初めてGMVの非公表を決め、波紋を広げている。なぜGMVが非公表となったのか。アリババにターニングポイントが訪れたのは20年だ。 - 日本の「iPhone 14」は世界で2番目に安い 世界37カ国の税込価格を円換算で比較 価格調査サイト調べ
「iPhone 14」シリーズの日本での価格は、世界で2番目に安い──ガジェットの国際価格の調査を行うNukeniは、世界37カ国のiPhone 14シリーズの価格を比較した結果を発表した。 - 中国VRの「PICO4」、「Meta Quest」に追いつくための2つの条件
中国・バイトダンス傘下の「Pico Technology」が9月下旬、VRヘッドセット「PICO 4」を発表した。VR市場は急成長しているが、ヘッドセットはMetaの「Meta Quest」シリーズがライバル不在の強さを見せる。PICO 4は市場の勢力図を変えることができるのだろうか。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.