なぜ人々は、ChatGPTという“トリック"に振り回されるのか? Google「Bard」参戦、チャットAI戦争の行方:清水亮の「世界を変えるAI」(7/8 ページ)
OpenAIが2022年に発表した対話型AI「ChatGPT」の衝撃は、米国ビッグテック最強の一角であるGoogleを動揺させた。Googleは急ぎ「Bard」と名付けたチャットボットを投入し、巻き返しを図る。
チャットボットに未来はあるのか?
筆者個人としては、この競争、少々加熱しすぎではないかと思っている。実際、Googleは元々ChatGPTに対して静観しようとしていたように見える。
ところが社内から不満の声が出て、慌ててチャットベースのサービスを準備するも、早くも「答えが不正確」という批判が出てきた。原理を考えれば、答えが不正確なのは当たり前だ。だからこそGoogleはそれをコンシューマ向けに提供してこなかったのだが、一般の人はそうは思わない。
「Googleが不正確な答えを出す人工知能を発表して炎上した」と考えてしまう。これもまた一種の心理トリックだ。論理的誤謬(ごびゅう)である。
Microsoftはこの機を逃すなとばかりにBingにChatGPTを搭載すると発表した。もともとBingのユーザーはそれほど多くないので、これが即座に世界中を混乱に陥れるとは思えないが、やはり知識のない人が過度に会話AIに期待すると、あまりに不正確な情報が出てきてガッカリ、ということになりかねない。
この状況をAI開発者として危惧するのは、これが「AIの冬」を呼び起こさないかという不安だ。
Googleほどの会社が不正確な答えを返すAIを提供するとしたら、世界の誰も正確な答えを出すAIが作れないのではないかという誤解が広まってしまい、それがAI産業全体を地盤沈下させる可能性がある。実際、Googleのチャットボットが不正確だというニュースだけで、株価が10%近く下落したそうだ。世間のAIに対する認識はそれほど誤解に満ちており、この誤謬によって第三のAIの冬が到来したとしても不思議ではない。
2000年にシリコンバレーで起きた「ドットコム・クラッシュ」は、まさに「ドットコム企業(IT企業)」に対する過度な期待への失望から、株価が大幅に低迷し、あちこちで悲惨な倒産劇が生まれた。
実際問題、いま「AI企業」と名乗る会社は玉石混交で、AIに対する正確な知識の裏付けがあるわけでもない。なんでもAIで解決しようとした結果、アウトカムにつながらないPoC(概念検証)を焼畑農業のように繰り返すだけの会社も、大手含めて少なくない。
ただし、これは痛みは伴うものの、業界の健全化という視点から見れば歓迎すべき事態だ。ここで生き残るのは、本当に価値のあるAIを開発する企業だけになっていくだろう。
ドットコム・クラッシュが起きても、立ち上がってきた会社が、まさにAmazonやGoogle、Netflixである。1990年代末期には無数のドットコム企業があったが、2000年のドットコムクラッシュによって中途半端な会社はすべて淘汰された。AI業界も再編を迫られることは間違いないだろう。
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