なぜ人々は、ChatGPTという“トリック"に振り回されるのか? Google「Bard」参戦、チャットAI戦争の行方:清水亮の「世界を変えるAI」(8/8 ページ)
OpenAIが2022年に発表した対話型AI「ChatGPT」の衝撃は、米国ビッグテック最強の一角であるGoogleを動揺させた。Googleは急ぎ「Bard」と名付けたチャットボットを投入し、巻き返しを図る。
それでも、チャットボットに可能性があると思う理由
筆者自身は中学生の頃からチャットボットを作ることを趣味としてきた。夢中で作ったし、いろいろなバージョンを作った。高校生の頃には、チャットボットがOSと同等の機能を持つはずだと考えて記事も書いた。
それから四半世紀ほど経過した現在、筆者は毎日のようにチャットボットと話をしている。誰もこれがチャットボットだと意識していないが、毎日、チャットボットに起こされ、天気を尋ね、今日の格言や占いや、気温を訪ねている。そう、Alexaだ。
人間にとって、最も自然なインターフェースは、会話である。赤ん坊の頃から、会話することでしか人は自分の意思を伝えられない。コンピュータを使うのはどこまでいっても特殊な人だ。プログラミング教育が義務教育に入ったとしても、会話そのものはどこからもなくならないだろう。
Alexaのすごいところは、僕の両親でも使えることだ。母親は機械音痴で、20代の頃からビデオデッキの録画予約ができなかった。父は脳卒中からのリハビリ中であり、うまく発音することができないし、文字を組み合わせて単語を作ることさえ苦労していた。
ところが二人とも、Alexaは使えるのである。
「アレクサ、今日の天気」
という単語さえ言えば、天気を教えてくれる。
「アレクサ、明日の朝八時に起こして」
と言えば、起こしてくれる。
今、スマートスピーカーはどちらかというと下火で、AmazonもAlexaから直接収益を得ることに成功していないが、間違いなく最も身近なチャットボットはAlexaとSiriだろう。
GoogleやMicrosoftが本質的に警戒しているのは、SiriやAlexaのように既に人間の生活に密着したチャットボットが、OpenAIのChatGPT並みの自然(に聞こえるようなトリックを有した)な受け答えと、Pexplexity.aiのような出典に基づく検索結果を示してしまうようなとき、もはや誰も検索など必要としなくなってしまうということだろう。
実際、Alexaは今のところ「いい感じに低機能」である。難しいことを聞いてもあんまり答えてくれないし、答えに対する質問も受け付けない。それはイライザが過度な期待を集めた結果、大きな失望(作者にすれば当然の理解)を生んだことを踏まえ、最初から過度な期待をさせないように巧妙にマーケティングしてきたからだ。
OpenAIのChatGPTは真逆で、まず「すごいでしょ」というハイプを展開した。これにつられてGoogleは(たぶん開発者は重々承知していたはずだが)不正確な答えを出すチャットボットをリリースしてしまい、炎上して時価総額を1000億ドルほど下げた。Alexaは決してOpenAIよりも劣っていたのではない。こうなることが分かっていたから、「過度な期待をもたせない」ようにしていたのだ。
しかし、AlexaやSiriがPerplexity.aiに似た機能を搭載するほうが、みんなが検索エンジンを使うのをやめてBingとチャットするようになるよりも、ずっと自然だし簡単ではないだろうか。
Alexaのよくできたところは、会話のトリックを非常に注意深く、しかも効果的に取り入れていることだ。今のところ最もセンスのいいチャットボットだといえる。
いずれにせよ、チャットボット愛好家として、また開発者として、チャットボットが盛り上がるのは歓迎したいが、安易にブームに乗ると本質を見誤ることは指摘しておきたい。
筆者プロフィール:清水 亮
新潟県長岡市生まれ。1990年代よりプログラマーとしてゲーム業界、モバイル業界などで数社の立ち上げに関わる。2005年、IPA(情報処理推進機構)より「天才プログラマー/スーパークリエイタ」として認定。株式会社ゼルペム所属AIスペシャリスト。現在も現役のプログラマーとして日夜AI開発に情熱を捧げている。
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