従来の法人カードとは何が違うのか? UPSIDER vs バクラクビジネスカード(後編):SaaS対決(1/3 ページ)
後編では、UPSIDERとバクラクビジネスカードの思想の違いと、それに基づく機能と特徴を概観する
前編ではクレジットカードの歴史を振り返るとともに、カードの用途が広がり、特にスタートアップでは既存のビジネスカードが対応できない悩みが出てきたことに触れた。そこに対応しつつ、ビジネスカードそのものを大きく進化させるサービスを提供しているのがUPSIDERとバクラクビジネスカードだ。
UPSIDER
UPSIDER社は、「挑戦者を支える世界的な金融プラットフォームを創る」というミッションを掲げる、コンサルティングファーム出身の宮城徹氏と水野智規氏が創業した金融スタートアップである。
ビジネスカードである「UPSIDER」はリリースから2年半で順調に導入社数を伸ばしており、良い滑り出しをみせた。ただし、さまざまなインタビューで宮城氏が「法人カードはスタート地点にすぎない」と語っている通り、狙いはまだまだ不便で使い勝手の悪い法人間の決済領域全体に更なるイノベーションを起こすことだ。22年にはクレディセゾンとの共同事業である「支払い.com」もリリースし、事業領域を拡大している。
UPSIDERの1つ目の特徴は、「上場のための法人カード」を標榜し、「最大1億円以上の限度額」も可能とする独自の与信モデルだ。銀行口座のデータをAPIで連携させることで、リスクを適切に評価し、既存のビジネスカードよりも大きな与信枠の付与を可能にしている。
スタートアップは、銀行から借入をしながら少しずつ規模拡大を図っていく中小企業とは似て非なる存在だ。しかし銀行やクレジットカード会社は過去の財務情報でしか評価する術を持たないため、これまでスタートアップを適切に評価することができなかった。ここに新規参入の余地が生まれる。まさにイノベーションのジレンマであるが、歴史が長く規模の大きい金融機関やカード会社から見れば「対応する必要がない」顧客であったスタートアップに照準を合わせ、UPSIDER社はビジネスカードに参入したのである。
2つ目の特徴は、無制限に発行できるバーチャルカードだ。カード番号、カード名義、有効期限、セキュリティコード(通常はカードの裏面に記載されている3桁の番号)の4つの情報が手元にあればオンライン決済は行うことができるため、店舗などで利用しないのであれば、リアルなカードの発行は不要となる。そのニーズに応えるために生み出されたのがバーチャルカードであり、UPSIDERではWeb上で無制限に発行できる。
バーチャルカードがない時代は、オンライン決済にしか利用しない場合であってもリアルなカードが発行されてしまうため、会社の金庫にしまうなどして管理していた。カード会社にとっても発行費用や郵送コストなどをかけて、店舗で使用されないカードを作成するメリットはないが、既存のカード会社のシステムではバーチャルカードに対応することは難しかったのだ。
バーチャルカードの発行が無制限にできるため、人別ではなく、部門別や用途別のカード番号を発行することができる。「AWS」「Google」などの用途別、「○○展示会」「××セミナー」などのイベント別、「営業部」「マーケティング部」などの部門別、というふうに利用シーンごとに別々のバーチャルカードを発行し、かつ、1つずつ利用限度額を設定することが可能だ。
クレジットカードの利用明細は、利用日・金額・利用店舗名という必要最低限の情報しか載ってこないため、誰が何のために支払った費用なのかを確認するのは非常に手間がかかる作業である。あらかじめ目的別にバーチャールカードを発行しておくことで、確認作業はずっとスムーズになる。ガバナンス強化につながるため、上場企業など、利用企業の拡大にもつながっている。
3つ目の特徴は、利用明細に領収書や請求書などのエビデンスをひも付けることができることである。Web上で利用明細を見られることは今では当たり前だが、その利用明細は前述の通り情報が不十分であるため、領収書等をひも付けなければ利用内容が明確にならない。
UPSIDERは単にWeb上の明細にファイルをアップロードさせるだけではなく、Slack連携機能も提供し、Slack上に流れてくる利用通知に対して、領収書等を貼り付けるだけで自動的にアップロードできる。クラウド会計などでは連携した明細データにエビデンスを添付することはできたが、会計ソフトは経理担当者しか使えない。UPSIDERは実際にカードを利用した人間が各自でエビデンスをアップロードすることで、経理担当者の手間を分散させているのである。
ビジネスカードという枠組みの上に、バーチャルカードや利用明細管理の機能を付加したUPSIDER社は、22年10月に467億円の大型資金調達を実施し、その機能にさらに磨きをかけことはもちろん、決済を切り口にスタートアップだけでなく、上場企業を含めた多くの企業の成長を支えるための新しいサービスを提供しようとしている。
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