粘菌100万体の振る舞いを個別計算、ラット脳細胞で機械学習──ライゾマ真鍋氏が見せた「AIの少し先の未来」(4/4 ページ)
粘菌100万体の振る舞いを個別計算、ラット脳細胞で機械学習──クリエイティブ集団Rhizomatiks(ライゾマティクス)の真鍋大度氏が個展で見せた、「AIの少し先の未来」を紹介する。
「生成系AI」ならぬ「生成系細胞」? ラット脳細胞で機械学習
EXPERIMENT04 Cells: A Generation。タイトルは「生成系AI」ならぬ「生成系細胞」といった意味だろうか。最近、脳と機械を結ぶBrain-Machine-Interfaceの研究が盛んだが、それは脳から直接コンピュータを操作できる研究でもあれば、機械が脳を部品の一つとして活用可能にする技術でもある(しかも、製造コストがかかる機械の部品と違って細胞は比較的簡単に培養して増やせる)。この作品ではラットの脳細胞をコンピュータ代わりにしてブロック崩しのゲームを学習させ、その学習過程を映像化している。疲れてしまうのか、日によって、あるいは負荷のかかり方によってパフォーマンスに大きな差が出るのが「生命知能」の大きな特徴と真鍋氏は言う
最後、4つ目の作品は「EXPERIMENT 04: Cells: A Generation」。なんとラットの脳の細胞を計算機代わりにして機械学習をさせているという作品だ。生成系AIなど便利なツールの登場で、最近ではかえってジェネラティブアートの新奇性が失われ、類似したコンセプトや表現が多くなっているという真鍋氏。
そこで人工知能とは異なる「生命知能」、私たちの脳に宿る創発原理を使って絵を描かせる実験を開始。この作品では、その過程としてラットの神経細胞にブロック崩しゲームを学習させている。脳細胞は与えられた環境の中で罰が少なくなるように学習していくのでその原理を使って学習させるのだという。コンピュータ上の人工知能を学習させると、ただひたすらブロック崩しが上手くなる一方だが、生命知能の場合には、一度、上手くなっても時々、疲れて失敗が増えたりするらしい。
真鍋は将来的にはラットの脳だけでなく、真鍋の分身である彼自身の脳オルガノイド(多能性幹細胞から分化誘導された、生体と類似の構造を持つ三次元脳組織)に絵を描かせたり、音楽を生成させることを目指し、人間にとって創作欲求とは何か、そして意識とは何かという究極的な問いに迫りたいとしている。
おそらく制作の過程では倫理的な議論も浮上するだろうが、資本の追求や既存の社会のルールに縛られずに探究をするのがアートの世界。本展公式サイトでも「アートは社会の変化を予言するエッジに位置します」との文言が書かれているが、カナダの学者、故マーシャル・マクルーハン氏も芸術を「危機早期発見装置」と呼んでおり、通常のルールで縛られている中からは見えてこない、現実に起こり得る未来を見せてくれる装置だと位置付けている。
簡単には構築、再現できない先鋭的な展示が、遠方の山々や世界を代表する建築家による建物が美しいのどかな芸術村で含まれているアンバランスさ。展覧会のアートディレクターで、清春芸術村の吉井仁実理事長は真鍋氏を「現代のレオナルド・ダ・ヴィンチ」と呼ぶが、確かにそう思わせるほどに未来を感じられる展覧会だった。
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