スモールビジネスにもERP freeeが提供開始
freeeが、クラウド型ERP(Enterprise Resources Planning)の提供を始めたと発表した。3つの既存サービスを、データ連携機能を実現した上で「freee統合型ERP」としてセットで提供。これまで大企業向けが多かったERPを、受託型・請負型のスモールビジネス向けに展開するという。
freeeは8月24日、クラウド型ERP(Enterprise Resources Planning)の提供を始めたと発表した。3つの既存サービスを、データ連携機能を実現した上で「freee統合型ERP」としてセットで提供。これまで大企業向けが多かったERPを、受託型・請負型のスモールビジネス向けに展開するという。
freee統合型ERPは、人事労務向けの「freee人事労務」、会計機能を提供する「freee会計」、販売管理の「freee販売」を、各サービスのデータ連携を実現した上でまとめて提供するもの。大企業向けのERPとは違いカスタマイズは行わず、代わりに低コストでの導入を可能とする。ただし具体的な金額は公表していない。
各プロダクトが容易に連携できる“統合型”を訴求
そもそもERPとは、ヒト、モノ、カネといった企業の基本となる資源を統合的かつリアルタイムに処理し、効率的な経営を実現するためのソフトウェアだ。各プロダクトごとに個別のデータベースを持つコンポーネント型ERPと、すべてのプロダクトが共通のデータベースを参照する統合型ERPが存在する。
コンポーネント型は各プロダクトが疎結合しており、必要なものだけを組み合わせて導入しやすい利点を持つ。一方、統合型は各プロダクトの強い連携が特徴だ。いずれも大企業での導入は進みつつあるが、数億円から数十億円かかるコストがネックとなり、中小企業での利用は広まっていなかった。
freee統合型ERPはその名の通り、統合型ERPを志向するサービスだ。例えばソフトウェア受託開発企業がfreee統合型ERPを使った場合、freee販売で案件管理を行っている状態で、freee人事労務にエンジニアが工数を入力すると、自動的にfreee販売にデータが連携し、案件原価として集計される──といった動作が実現できるという。
営業が出張の際の経費をfreee会計に入力すると、freee販売にデータが連携され、案件別原価が精緻化されるといった連携も可能だ。
さらにfreee販売が請求書を発行すると、自動的にfreee会計と連携。会計側で入金を確認すると、それがfreee販売にも反映されるといったことも可能という。案件ごとに原価が可視化され、収支管理が行え、入出金も管理できる。一連のプロセスは、表計算ソフトを一切介さずに、freeeのサービス上で完結するという。
今後の戦略も明らかに 有形商材にも対象拡大
freeeは今後の機能拡充についても明らかにしている。freee統合型ERPのキーとなるfreee販売は現状、IT/Web業界やデザイン、コンサルティングなどの無形商材にしか対応していない。しかし今後は、サブスクのような定期販売にも対応する他、ECや小売など、在庫を持つ有形商材にも対象を広げていく計画という。
同社の佐藤顕範さん(債券販売プロダクトCEO)は「受託製造など、無形商材と有形商材のハイブリッド型事業に対応できる販売SaaSは他になく、freee販売の特徴になるだろう」と展望を語る。
販売関連のERPには、SFA(営業支援)やCRM(顧客関係管理)機能も付き物だ。しかし、freee販売は現状は簡易的なSFA機能を備えるだけとなっている。「今後の機能開発については意思決定していないが、外部のSFAやCRMとの連携、また内製の可能性も含めて模索していく」(佐藤さん)
ただ、拡販に向けては壁もある。本来、統合型ERPがその価値を真に発揮するのは会計、人事、販売などのすべてをセットで導入した場合だ。しかし、企業側からすると、まさに基幹となるシステムをすべて置き換えることの難度は高い。そして企業の規模が大きくなるほど、難しさも増していく。
そこで、複数のプロダクトを徐々に導入してもらい、統合型の価値を感じてもらうというのがfreeeの手法だ。これまでは複数の機能を一括で提供していたが、最近は経費精算のみ、会計を除くインボイス対応のみ、勤怠のみなど、コンポーネント型ERPに近い個別プロクトの切り出し提供も行っている。
同社の東後澄人CPOも「freee販売から導入を始める企業も増えてきた。入り口は多様化している」としており、統合型ERPについても同様の戦略を取るとみられる。
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