「ゲーム業界目指す最低限できていない」──社長のSNS投稿が議論呼んだサイバーコネクトツーが、実は抱えていた育成の課題:CEDEC 2023(1/3 ページ)
ゲーム業界を目指す学生に対する社長の投稿がSNSで議論を呼んだサイバーコネクトツー。実は、社内では新人育成・採用の課題を抱えていたという。同社が取り組む対策とは。
「ゲーム系専門学校や大学で学生に持っているゲーム機を聞くと、スマホ100%、Switch90%、PS4が70%、PS5が10%、Xboxが1%。結果を見る度に『ゲーム業界を目指す最低限の準備すらできていない』と認識する」──6月、X(当時はTwitter)でゲーム開発人材を巡るこんな投稿が話題になった。
投稿したのは「鬼滅の刃 ヒノカミ血風譚」「ドラゴンボールZ KAKAROT」などのゲーム開発を手掛けるサイバーコネクトツー(CC2)の松山洋社長だ。当時はゲーム業界関係者を中心に物議を醸し「家庭用ゲーム機にこだわる必要はない」「そもそも学生にはそんなお金はない」「最新ハードがなくても業界には入れる」などとSNS上でさまざまな議論を呼んだ。
社長は最近の若い人材に不満を持っているようだが、現場はそうも言っていられない状況のようだ。宮崎太一郎副社長によれば、CC2は社長の投稿とは別に、新人採用や育成の課題を抱えており、対策に取り組んでいるという。8月23日から25日にかけて開催中のゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC 2023」(パシフィコ横浜)で、宮崎副社長が詳細を語った。
「現場忙しすぎ、育成無理」 疲弊していた同社
宮崎副社長によれば、同社は新卒社員の育成・採用について以下の課題に直面しており、解決に取り組んでいる最中という。
- そもそも研修や育成に手が回らない
- 新人が目指すべき明確なキャリアパスがなく、モチベーションを上げられない
- 新しい技術の研究ができない
まず(1)について、同社はこれまでOJTという形でゲーム開発プロジェクトの現場に育成を任せていた。しかし現場の教育担当者は目の前の業務に手いっぱい。育成の余裕がなかったという。
というのもCC2では、人月計上の上では新人も1人月と計算しており、実質的に現場が圧迫される状態だった。研修の期間や内容も現場任せで「『背中を見てついてこい』や『できることだけやってもらう』になりがちだった」(宮崎副社長)。「今は面倒見てられない」と現場に新人の投入を嫌がられることも増え、人材の成長度合いにもムラが出ていたという。
しかも、新卒が育たないので新卒採用に力を入れられなくなり、優柔な人材を採れない悪循環にも陥っていた。「もちろんエースに成長する人もいるが、やはり指導者によってばらつきが出ていた」(宮崎副社長)
(2)については、育成が現場任せになり「新人にはできることだけやってもらう」が常態化した結果、若手のモチベーションがなくなってしまいがちだったという。
人事制度にあいまいな部分が多かったのも悪影響を及ぼした。CC2では新人が「ジュニア」、会社が求める1人月相当の働きができ、新人を束ねられる人を「シニア」と位置付け、待遇も分けていた。
しかしその中間は「一般社員」という、明確な定義がないあいまいなポジションで、昇格の是非も評価担当者のさじ加減次第だった。そのためジュニアが段階を踏んでステップアップしにくい構造になっていたという。
(3)は、現場が開発や新人育成に追われた結果、新しい技術のテストや研究ができなくなり、会社としての新しい試みができなくなってしまったという。これまで経験したことのないゲームジャンルや技術の知見を蓄積できず、会社としても受注できる案件の幅が狭まる事態に。新人だけでなく、既存社員のスキルが偏る問題にもつながってしまった。
「当社は縦割り組織ではなく、プロジェクト単位で人を割り振る。昨日まで「鬼滅」のゲームを作っていた人が、来週から「ドラゴンボール」のゲームを作る、ということもありうる。そのときに「鬼滅」しか作れない人では困ってしまう」(宮崎副社長)
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