“究極の服”は「ボディースーツ+拡張現実」? 生地素材スタートアップ がSF的に描く未来:SFプロトタイピングに取り組む方法(1/3 ページ)
未来のファッションは、ボディースーツに「理想の姿」を仮想的に投影するかもしれない――こんな将来像を語るスタートアップがあります。どんな姿を描いているのでしょうか。
将来のファッションは無地のボディースーツやスマートグラスを着けて、理想の姿を仮想的に投影するものになるかもしれない――こんな未来展望を語るのは、国内外の高級ブランド向けに洋服の生地を提供するスタートアップ・BVLAK(ブラック/東京都中央区)の代表です。
同社は、伝統的な生地メーカーの販促活動を打ち破る勢いで事業を展開し、ヨーロッパの大手高級ブランドと直接取引をしています。日々、多様な衣服が生まれるファッション業界の先端にいるBVLAKが見すえる未来のファッションとは。
同社はSF作家と鼎談(ていだん)を実施。SFをビジネスに活用する「SFプロトタイピング」を手掛ける大橋博之さんが取材しました。
こんにちは。SFプロトタイパーの大橋博之です。この連載では、僕が取り組んでいる「SFプロトタイピング」について語っていきます。SFプロトタイピングとは、SF的な思考で未来を考え、SF作品を創作するなどして企業のビジネスなどに活用するメソッドです。
今回は、生地素材を扱うスタートアップ・BVLAKの代表・正面雄一郎さんと田中奈津紀さん、SF作家の十三不塔(じゅうさんふとう)さんの鼎談をお届けします。
テーマは「ファッションの未来」。BVLAKとSF作家が考えるファッションの未来を語っていただきました。
ファッションの未来を語るにあたり、最初にBVLAKのビジネスについてお話いただいています。十三さんとの鼎談パートは3ページ目からご覧ください。
BVLAK
2016年10月設立/代表取締役 正面雄一郎
ヨーロッパのラグジュアリーブランドや国内の高級ブランドに生地を販売し、パリ・ミラノ・東京のコレクションで紹介されるファッションに最先端の素材をデザイン・製造・輸出を行うスタートアップ企業
十三不塔(じゅうさんふとう)
02年に小説「ジャイロ!」で第45回群像新人文学賞を受賞(早川大介名義)しデビュー。20年に「ヴィンダウス・エンジン」で第8回ハヤカワSFコンテスト優秀賞を受賞。
日本SF作家クラブ会員
海外高級ブランドからオファー “こだわり生地”が評価されるわけ
大橋 まず、BVLAKとは、どのような会社なのかを教えてください。
正面 生地メーカー、テキスタイルメーカーです。特にファッション用の生地を扱っており、ルイ・ヴィトンなどのブランドを傘下に持つ仏LVHMグループや、GUCCIなどを展開する仏KERINGグループに所属するヨーロッパの「メゾン」と呼ばれる高級ブランドの洋服に使われる生地のデザイン、生産、販売、輸出をしています。スタッフはアルバイトも含めて7〜8人。売り上げの約70%がヨーロッパ向け。日本に拠点を置きながら輸出メインの非常にユニークな会社だといえます。
大橋 ヨーロッパの高級ブランドが、日本の生地メーカーに依頼するのはどうしてなのですか?
正面 ヨーロッパでは作れない生地を製造しているからです。従来の高級ブランドは富裕層の年配者がターゲットでした。しかし、トレンドがここ7〜8年で若者にシフトし、スポーツとファッションが融合したストリートファッションが主流になりました。
例えば、CHANELが作っているパーカーで、一見すると普通のパーカーに見えるけれど、実はスポーツ素材という商品があります。ただし、使われているのはスポーツメーカーでは作れないような特殊な素材。そのような他では作れない生地を作る技術がわれわれにあるので、ご依頼いただいています。
大橋 一言でスポーツ素材といっても普通のスポーツ素材とは違うわけなんですね。
正面 例えば表面がポリエステルで、裏にコットンを使っている生地があります。これだけだとよくあるスポーツ素材ですが、われわれの生地は裏のループがきれいだったり、糸の強度が高かったり、洗濯後に裏の綿の部分が生地の表面に噴き出してこない。しかも柔らかい。原料、見た目にこだわりを持っています。
大橋 技術力が高いのですね。
正面 日本はもともと技術力が高い国です。しかし現在「Made in Japan」の伝説は崩壊しつつあり、中国などのアジア近隣諸国の方が物作りにおいては非常に勢いがあります。ゆえに日本製品が海外に出ると負けてしまうことも多いです。だからこそ、われわれは面白いもの、日本でしか作れない、われわれしか考えつかない、独自性が高く高級な生地をまず海外に販売しようとしています。
大橋 BVLAKから海外ブランドに「こんな生地がありますよ」とプレゼンするのですか?
正面 それもありますし、逆に「こんな生地はできないか?」と依頼されることもあります。客先の意向に先行し、常にトレンドに先駆けて新しい生地を作ることを心掛けています。われわれから海外ブランドに洋服のデザインを提案することはありません。
提案すると「完成品は見ない。生地だけでいい。どのような洋服をデザインするかはわれわれの仕事だ」と言われます。一方で、一部の国内のお客さまからは「生地は良いですね。で、どんな洋服になるかイメージの資料はありますか?」と聞かれることがあります。そういった理由から国内のお客さまに提案するときは生地と完成品の両方を持って行くこともあります。
大橋 メゾンブランドと同じようにできる日本のブランドは限られているのですね。
正面 特にヨーロッパのデザイナーは生地からインスピレーションを受けて作りたい洋服のデザインを考えています。そのこだわりから生地の幅や重さから手触りに至るまで詳細に指定してきます。「あと、50グラム軽い方がいい」とか。一方で日本国内で細かな指定などをするのは限られたトップ層だけです。
当社のお客さまである日本の高級ブランドの話ではありませんが、例えば日本国内のトレンドであるSDGsを取り入れた“究極のスポーツブランド”を作っても国内販路での販売で終わってしまうことがほとんどです。世界展開するためにどのようなメッセージを訴え、ストーリー性を持たせ、社会にどのような驚きを与えたいというところまでいかない。日本発のメーカーがグローバルに活躍したいのなら、その感覚は絶対に必要だと思います。
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