“究極の服”は「ボディースーツ+拡張現実」? 生地素材スタートアップ がSF的に描く未来:SFプロトタイピングに取り組む方法(2/3 ページ)
未来のファッションは、ボディースーツに「理想の姿」を仮想的に投影するかもしれない――こんな将来像を語るスタートアップがあります。どんな姿を描いているのでしょうか。
高級ブランドの扉をノック “直接訪問”で得た信頼
大橋 正面さんはミュージシャンだったのだとか?
正面 これを話すと長くなるのですが(笑)、30歳くらいまで音楽をやっていました。でも、メジャーデビューをしても音楽では飯が食えなくて。しかも年齢的にも賞味期限が来たことで音楽を辞め、次に何をやろうと考えたとき、日本の面白いものや素晴らしいものを海外に紹介したい、最終的には自分でも作り、エンジニアやセールスの立ち位置で活躍したいと思いました。
そのタイミングで老舗生地メーカーの“カリスマ”に出会ったことから、生地に興味を持ち、生地業界に関わることになりました。その会社で「高級ブランドにセールスしてきてほしい」とヨーロッパへの出張を命じられました。むちゃぶりでしたが、直接訪問と取引がスタートし、そのおかげでどうすればお客さまが喜ぶか、ワクワクしてくれるかを「肌感覚」で知ることができました。
大橋 高級ブランドにセールスに行ってすんなりと採用されたのですか?
正面 当時、生地メーカーの営業で、高級ブランドのドアを直接ノックする人間はいなかったんです。通常は国際展示会に出展し、来場者にプレゼンして顧客を獲得したり、現地エージェントや代理店と契約したりする流れです。当時では珍しく私は直接アポイントを取って、フランスやイタリアまで現地に会いにいった。それが功を奏して、「面白い会社、珍しい営業マンだな」ということでビジネスの機会をたくさんいただきました。もちろん商品が良くないと次は会ってくれません。現在も当社の海外ビジネスにおいては商社や代理店は入っていなくて、直接取引を行っています。
大橋 海外の高級ブランドに採用されるのは難しいというイメージがあります。
正面 要求されるのは、品質とスピードの両方です。その昔、歌手のマドンナがステージのワンシーンで着る衣装の生地を「1週間で作ってくれ」といわれて作ったことがあります(笑)。通常なら2カ月かかる注文です。
オリジナルのデザインを一から構想し、原糸メーカーにお願いして2日で糸を作ってもらって、編み立てを行うニッターさんに1日で編んでもらって。それを自分で運んで、編み上がったものを染色工場に持って行って、生地が染め上がったらその日に東京に持って帰って、当日発送して、ということをしたことがあります。
海外との時差問題 在庫管理をテクノロジーで効率化
大橋 田中さんは国内営業がご担当だとか?
田中 もともとは国内営業の事務として2年前に入社し、書類の処理などをしながら生地の在庫管理やスペックの測定、出荷業務を主に担当していました。当社は製造業なので「在庫」が発生します。即日出荷を目指すため、在庫はどこにどれだけの量があるかを瞬時に調べる必要があります。図書館のように生地を管理している状態なのですが、“未来的に考える”と非効率的です。もっと便利にならないかと考え、生地に二次元コードを付けて管理するようにしました。その二次元コードを読み込んだら、在庫情報がリアルタイムで分かります。最近はRPA(事業プロセスの自動化ツール)の導入も試みており、効率化によってできた時間でPR活動など、業種や部署を飛び越えてよりパーソナルな力が必要な業務に挑戦をしています。
大橋 それは素晴らしいですね。
正面 当社は若い人材が多く、他ではやらないような面白いことをやってくれます。ヨーロッパとは時差があるので、どうしても対応に時間がかかっていました。それが二次元コードを活用することで、海外とのやりとりもスピーディーになりました。
大橋 田中さんは生地メーカーの面白さをどのように考えていますか?
田中 私はファッションは好きでしたが、完成された服しか見ていませんでした。この会社に入社して、服になる前の生地を見ることになり、手触りや重量感など服の見方は変わり、より深くファッションを楽しめるようになりました。もちろん洋服のデザインをするのはブランドのデザイナーですが、そのデザイナーが私たちの生地にインスピレーションを受けてくれることに日々誇りを持っています。流行をいち早く知ることができる楽しさや面白さを味わい、それを生かせるのは、直接海外と取引ができている私たちの特権です。
大橋 正面さんはSF作家との対談という企画に「面白そう」と手を上げていただきましたし、今の二次元コードの話を聞くと未来的な思考を持っているのだとよく分かります。
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