100年前のフィルムが「8K+AI」で生々しく 関東大震災に迫る「NHKスペシャル」制作の裏側(3/3 ページ)
9月2日午後10時から2夜連続で「NHKスペシャル 映像記録 関東大震災 帝都壊滅の三日間」が前後編で放送される。当時の記録映像を8Kスキャン+AI技術でカラー化したことで判明した、撮影場所/時刻などをもとに、巨大災害を追体験する内容となっている。今回、同局のチーフプロデューサーにテクノロジー面から番組制作の狙いを聞いた。
番組制作を通して見えてきたもの
長年、関東大震災の番組を作り続けている木村氏だが、今回の制作で見えてきたものはあるのだろうか。「関東大震災は、地震そのものの被害も大きいが、一番被害を出した原因は地震後の火災。今後東京を襲う地震も、揺れもあるがそのあとの火災。さらに火災が起きることでの避難が一番大きリスクになってくると、これまで関東大震災を取材する中で思っていたこと」と語る。
「映像を見ると、みなさん地震が起きて建物が倒壊しているものの、その段階で命が助かってちょっとほっとされている。だが、そのあと火災が迫って焼け野原になる。火災が起きてから避難というところの怖さは、私達が一番知っておくべきところだと、事実としても映像から読み取れるところとしても大きい」と、地震そのものとそれを原因として発生する二次被害の怖さを説いた。
また、SNS時代になり自然災害時に投下されるデマが後を絶たなくなっている。最近は生成AIの登場もあり、例えば静岡県で2022年9月に発生した台風15号による水害では「ドローンで撮影された静岡県の水害」として、生成AIで作られたフェイク画像が拡散されている。こうした流言飛語についてだが、木村氏は「100年前と今と、人は変わっていない」と説明する。
「混乱する中で当時も流言飛語がすごく、それによって殺害事件が起こっている。熊本地震の時も、動物園からライオンが逃げるというものもあったが、当時の証言音声を聞くと、上野動物園から猛獣が逃げたというデマが出ていた。そういうところは100年たっても変わらない」「当時はラジオもなく、新聞社も焼失して新聞を発行できず、情報がない中でデマが広がった。今は私たちが災害時に正しい情報を流す責任を持っているというのは、当時より良くなった反面、SNSなど玉石混交のさまざまな情報が出てしまう難しい側面もある。放送局としての責任も感じるが、デマが出回ると分かって情報に接することがすごく大事だと思う」と語った。
こうした流言飛語などの地震がもたらした混乱の様子なども、番組内にて触れられるという。放送は、前編が9月2日夜10時から、後編が3日夜9時から。前編は3日にも再放送を予定しているという。また、「NHKプラス」でも視聴可能だ。
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