将来は「脳と結合するARグラス」も――XREAL創業者×SF作家が語る未来の“リアル”:SFプロトタイピングに取り組む方法(1/3 ページ)
未来では、AR技術で「無数のリアリティーのバージョン」が存在する――ARグラス「XREAL Air」を世に送り出したXREALの創業者はこう語ります。SF作家とテクノロジーの未来について語った様子をお届けします。
人間は周囲の情報の95%以上を視覚から得ており、視覚へのインプットを変えれば現実の認識も変わる。未来では、AR技術で「無数のリアリティーのバージョン」が存在する――こう話すのは、ARグラス「XREAL Air」を世に送り出した中国のXREAL創業者の一人、ペン・ジンさんです。
XREALの社名はもともと、現実(REAL)と非現実(UNREAL)の中間を意味する「Nreal」でした。それをデジタルと現実をつなぐ架け橋としての「X」にアップデートしたのです。そんな同社が見すえる未来を取材すると、テクノロジーと人の関係を考察する興味深い姿が見えてきました。
ペン・ジンさんの話を聞いたのは、SF作家の空木春宵さん。取材したのは、SF的な思考をビジネスに生かす「SFプロトタイピング」を手掛ける大橋博之さんです。(ITmedia NEWS編集部)
こんにちは。SFプロトタイパーの大橋博之です。この連載では、僕が取り組んでいる「SFプロトタイピング」について語っていきます。SFプロトタイピングとは、SF的な思考で未来を考え、SF作品を創作するなどして企業のビジネスなどに活用するメソッドです。
今回は、XREALのペン・ジンさん(共同創業者)とSF作家の空木春宵さんとの対談をお届けします。
テーマは「ARの未来」。VR(仮想現実)やAR(拡張現実)、MR(複合現実)、SR(代替現実)などを総合してXRと呼びますが、ARは現実世界を立体的に認識して、仮想的に拡張する技術を指します。ARは既に未来の技術ですが、ARが進化するとどのような世界が訪れるのかを語っていただきました。
XREAL
「消費者がARをより身近に感じられるようにする」ことを目指す世界的テック企業。2017年、サイズや重量などで世界トップクラスの革新的なビジネス向け多機能ARグラス「Nreal Light」と、コンテンツ視聴に特化して一般ユーザー向けにシンプルな機能に絞った「Nreal Air」を開発。23年、XREALに社名を変更。ARを誰しもが利用でき、アクセスできる世界を目指している。
空木春宵
駒澤大学文学部国文学科在学中の11年、小説「繭の見る夢」が第2回創元SF短編賞にて佳作を受賞。同作がオリジナルアンソロジー「原色の想像力〈2〉」に収録され、作家デビュー。日本SF作家クラブ会員。変格ミステリ作家クラブ会員。
XREAL創業者の展望 「過去40年を超える変化」を起こす技術は?
大橋 XREALとは、どのような企業なのでしょうか?
ペン・ジン XREALは世界最大級のコンシューマー向けARベンチャー企業です。私たちは米国や日本、中国、韓国、英国で事業を展開しており、世界にARグラスの体験を提供しています。
大橋 ありがとうございます。ペン・ジンさんの自己紹介もお願いします。
ペン・ジン XREALの共同創業者です。私の出身は中国で、米国の大学を卒業した後、主にIT企業に対して米国上場の手助けをするIPO支援を行っていました。また、アジアにある3つのIT企業のNASDAQ上場を支援しました。そこでの私の主な業務は、裏方となる企業調査や資金調達、起業支援です。今まで4億ドル規模の資産を持つ中国のテクノロジー企業のリスク投資や資金調達を手掛けてきました。
一般的な人より早い段階でインターネット関係のIT企業や最新のテクノロジーを扱う企業の支援を行っていたため、常にハイテクノロジーに触れてきました。
大橋 なぜ、ARの分野で起業することになったのですか?
ペン・ジン 過去40年の間、現代社会の発展に大きな影響を与えた要素は2つあると思います。一つはマイクロプロセッサとクラウドコンピューティングの進歩です。もう一つはインターネット技術による情報のつながりです。
われわれが使っているアプリケーションやモバイル決済といった、生活の中でよく目にするクリエイティブなサービスや成功しているビジネスは全て、この2つの要素に帰結するといえます。
ARはバーチャルコンテンツを現実世界に重ねて表示することを基本にした技術です。大きな影響を与えた前述の2つの要素に第3の軸が追加されるイメージで、情報の表示を革新的に早めることができます。2つの要素にAR技術という全く別の次元が加わることで、今後、20〜30年の変化は過去40年の変化をはるかに超えると予測しています。これがAR領域で起業した理由です。
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