将来は「脳と結合するARグラス」も――XREAL創業者×SF作家が語る未来の“リアル”:SFプロトタイピングに取り組む方法(2/3 ページ)
未来では、AR技術で「無数のリアリティーのバージョン」が存在する――ARグラス「XREAL Air」を世に送り出したXREALの創業者はこう語ります。SF作家とテクノロジーの未来について語った様子をお届けします。
「日本のテクノロジーが人生に新しい体験を与えてくれた」
大橋 日本に対してはどのような期待を持っているのですか?
ペン・ジン 日本はXREALが参入した最も早い国の一つです。日本はアジア諸国においてハイテクノロジーの開発や活用が盛んな国であり、経済的にも文化的にもトップレベルです。
実は、私は人生の大部分を日本のテクノロジーと共に過ごしてきました。ソニーの「ウォークマン」もそうですし、人生で初めて買った車も日本製です(笑)。常に日本のテクノロジーが私の人生に新しい体験を与えてくれました。次は、私が素晴らしいと思う製品が日本のコンシューマーや市場に受け入れてもらえれば誇りに思います。
大橋 AR市場は拡大傾向にあります。その中でのXREALの優位性を教えてください。
ペン・ジン XREALは、ただのディスプレイ技術の企業だと誤解されています。私たちが持っているノウハウはディスプレイ技術にとどまりません。私たちは独自のSDK(ソフトウェア開発キット)を持ち、それを使えば誰でも自由に高品質なAR開発が可能になります。またコンピュータビジョンやジェスチャー認識、ジェスチャートラッキング、環境センシングといった分野においてもXREALのノウハウは数多くあります。
しかし、ハイテクノロジーの企業が新しい技術を市場に持ち込むときに最も重要な原則は、コンシューマーに対して「最高のテクノロジー」ではなく「最高の体験」を与えることです。XREALは“スペシャルディスプレイ”という体験をリリースしました。それが新たな視聴体験の基準としてコンシューマーに受け入れて欲しいと強く願っています。
空木 私も体験させていただきましたが、ARレンズをかけるとバーチャル映像は固定されていて、頭を動かしても位置が変わらない。ものすごいテクノロジーが用いられているのだと理解できます。
ARで描く未来は? 「無数のリアリティーのバージョンが存在」
大橋 XREALが目指すビジョンを教えてください。
ペン・ジン 私たちが思い描く未来は、AR技術の最大の価値でもあるデータを現実世界に重ねることです。それは、中東のドバイ政府と検討した未来のメタバースシティの概念でも実現しつつあります。
空木 技術の先端を作っていくとき、今までフォローしていなかったニッチな部分を作っていくのか、それとも革新的な今までなかった世界を生み出そうとしているのか、どちらでしょうか?
ペン・ジン そうですね、AR技術が出てくるまで「リアリティー」という単語は単一のバージョンでしかありませんでした。しかし、AR技術が生まれた後はそうではありません。人間が周囲から得る情報のうち95%以上を視覚から得ています。視覚へのインプットを変えるとリアリティーに対する認識も変わります。
未来ではAR技術によって無数のリアリティーのバージョンが存在することになるでしょう。どの会社のサービスを利用するのかを選択することでリアリティーが変わってきます。人によって砂浜にいたり、雪山の頂上にいたり。自分のお気に入りのリアリティーを選択することが可能になります。
また、AR技術によって多くのデジタル化された生命体が生まれると思います。AIによってコントロールされ、本当の動物のように自分の性格を持ち、人や出来事に対して異なる表情や反応ができます。
空木 今までのAR技術は、今あるものに情報を付加することがほとんどだったと思います。でもペン・ジンさんはそうではなく、違う世界を作ろうとしている。というか、違う世界の中から自分が生きる世界を作ろうとしている。しかも完全にバーチャルの世界に没入するのではなく、現実の世界を変えようとしている。すごく面白いと感じます。
ペン・ジン その意見にとても共感します。ARはVRより規模が大きいと感じます。人は物理的に存在するものに対して好意を抱きます。例えば、風を感じたり、木々が揺れたりするのを見たりすると心地よさを感じます。人を現実世界から隔離すべきではありません。
人は霊的な生き物です。人と人との触れあい、自然との触れ合いは生活する上で欠かすことのできない要素です。VRの一番の問題は人を現実世界から切り離してしまったことです。それによって人との触れあいもなくなりました。それが、私たちがVRではなくARを選択した理由です。
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