生成AIで電話応対を効率化 最大54%の時間削減に成功 ELYZAとJR西日本のコンタクトセンターの事例
AIベンチャーのELYZAは、JR西日本のコンタクトセンターと共同で、言語生成AIを使って一部業務の効率化に成功したと発表した。月間で約7万件の電話問い合わせの応対記録を全てテキスト化しているが、AI導入したところ、対応時間を18〜54%削減できたという。
今最も話題になっているテクノロジーといえば、生成AIといっても過言ではないだろう。米OpenAIのAIチャット「ChatGPT」の出現以降、生成AIのビジネス利用を検討する企業も少なくない。そんな中、AIベンチャーのELYZAは、JR西日本のコンタクトセンターと共同で、言語生成AIを使って一部業務の効率化に成功したと発表した。
「JR西日本お客様センター」を運営するJR西日本カスタマーリレーションズ(兵庫県尼崎市、以下JWCR)では、月間で約7万件の電話問い合わせを受けており、サービス改善のためにその応対記録を全てテキスト化している。この業務に、ELYZAが開発した言語生成AIを利用し始めたところ、対応時間を18〜54%削減できたという。
「応対記録をテキスト化する際、対話ログのままでは情報を共有するには非効率なため、オペレーターが要約処理をして保存している。一方で、この要約処理自体に非常な労力がかかっており、オペレーターによる要約品質のばらつきも存在する状況だった」(JWCR)
そこでELYZAとJWCRは、5〜8月にかけて通話内容の要約業務に生成AIを導入する実証実験を実施した。4〜8月の平均値で要約業務は4.9万件/月あり、時間に直すと1700時間/月を要した。1700時間のうち、約8割の時間を占める3つの業務「介助申込」(体の不自由な客への介助の依頼など)、「意見・要望」「問い合わせ」の要約にAIを取り入れた。
AIなしの場合、介助申込の要約業務は1件当たり約14.1分かかっていたが、AI導入後は約6.5分で処理でき、業務時間を約54%短縮することに成功した。同様に、意見・要望は約13.4分→約10.6分(−21%)、問い合わせは約2.2分→約1.8分(−18%)まで縮めることができた。
この結果について、ELYZAは「介助申込は、お客さまに伺う事柄が定型化していることから後処理時間が短縮したと考えられる。意見・要望は、複数のトピックが含まれる可能性があり、加えて、お客さまの意図をくみ取ることに時間がかかる場合もあり、後処理の難易度が高い。そのため、後処理時間の削減割合が、介助申込に比べ低くなっていると考えられる」と分析している。
この結果を受け、JWCRは言語生成AIの正式導入を決定。9月18日までは一部のオペレーターのみ先行的にAIを使っていた状況だったが、19日以降は段階的にAIを利用するオペレーター数を拡大し、本格稼働させているという。
「AI導入に当たり、各オペレーターに対しては『そもそもAIとはどのようなものであるのか』を説明した。例えば『現時点の精度が最大値ではなく、改善により精度が上がっていく』『精度改善が見込めたとしても100%の精度が出るということは難しいので運用面でもカバーをしていく必要がある』などだ。この点について、説明会を複数回設定し、AIリテラシーの向上を図った。加えて、オペレーターがAI利用を円滑に開始できるように、AIの操作マニュアルも作成した」(ELYZA)
今回ELYZAが開発したAIには、基盤となる大規模言語モデルに「GPT-3.5」と「GPT-4」を利用。問い合わせ内容によって使い分けることで、回答精度とコストのバランスを取ったという。JWCR側もAI導入を前提に、電話応対フローを一部変更。「AIが人や業務に合わせるだけでなく、人や業務からAIに寄り添うことで、精度や成果の向上に大きく貢献した」(JWCR)と話している。
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