未来を考える“SF思考” 初心者こそやってほしいワケ 「意思決定者を度外視」がポイントに?:SFプロトタイピングに取り組む方法(2/3 ページ)
20年先、50年先、100年先――本気で「未来」を考える企業が増えています。注目が集まるのが、「SF」の力を借りてビジネスの将来像を考える手法「SFプロトタイピング」です。その取り組み方を取材しました。
SF初心者だから抵抗がある? いやいや「知らないからいいんだよ」
石原 先ほど「SFの力を誰も理解していない」という話がありましたが、それは僕が取り組んでいる、アート思考のプロジェクトにもいえると思います。アートを誰も理解していない。でも、よく分からない人がやることに意味があるということがすごく大事です。
「SF初心者だから抵抗がある」「SFを知らないのに、『SFプロトタイピングをやりました』なんていってもいいのかな」という抵抗感はきっとあると思います。しかし、アマチュアだからこそ発想できる未来観はあります。例えば、芸能人に対してアマチュアのインフルエンサーが現れ、アマチュアにしかできないことをする。知らないからこそできる“ヘタウマ”のアウトプットというのは必ずあるわけです。「知らないからやってはいけない」みたいな感覚からは脱却してほしいと思います。「知らないからいいんだよ」と言いたいです。
石原航
アーティスト/ハッカー/imkp Lab. CSO
慶應義塾大学総合政策学部卒業、同学政策・メディア研究科博士課程を単位取得満期退学。「ありえるかもしれないインターネット」をテーマにさまざまな作品やシステムを制作・開発しながら、新しいアバター観やデジタルコミュニティーの可能性を思索・研究中。
総務省認定異能β(総務省公認のへんなひと)保持者。芸術や文化の祭典「Ars Electronica」の「 2019 Future Innovator」に選出。公益財団法人のクマ財団奨学クリエイター4〜5期生採択。
主な受賞歴に「WIRED Creative Hack Award 2021」準グランプリ、同賞 2018 特別賞、「Campus Genius Contest 2019」審査員特別賞など。
大橋 それはよく分かります。SFが好きな人は「それって〇〇だよね」で片付けるところがあります。「それって鉄腕アトムだよね」「ガンダムだよね」と。それで共通認識できて便利なところはありますが、思考がそこで終わってしまう。
石原 「お前のやっていることは、既存のモノの再発明だよ」と言い出すと、そこで思考がストップしてしまいます。同じモノであろうと、未来がどうなるかを頭の中で組み上げる。その過程で全然違う未来ができることも、きっとあるはずです。むしろ、いろいろな未来観を知っている人が先入観で見落としてしまう道筋を見つけることができると思います。
丸山 「SF」という言葉に負けない環境を作ることも大事だと思っています。SFと聞くと、どうしても科学的なことを想起しますよね。それこそガンダムとか、すでにあるものを想起してしまう。それはSFプロトタイピングの本質からずれてしまっています。もしかしたら、SFよりももっと適切なワードが必要なのではないかと個人的には感じています。言葉から変えていく取り組みは必要があるかなと。
大橋 ただ、SFという言葉は便利で、企業が社員に「SFプロトタイピングをやるよ」と公募すると、SFの言葉に引っかかる人が多いんです。「SFって何?」「SFで何するの?」と。もちろん、引っ掛からない人は引っ掛からないけど、引っ掛かった人はめっちゃ引っ掛かる。「これは参加しないともったいないと思って参加した」という話も聞きます。
一方で、SFプロトタイピングはSFを用いてビジョンを作ろうというもので、ビジョンを作るのは、SFに限るわけではないとは思います。
丸山 ビジョンを作る方法には、SFプロトタイピング以外にもアート思考やクリティカルシンキング、デザイン思考、トランジションデザイン、システム思考といろいろあります。「何をアウトプットしたいのか」を明確にした上で、どの方法で取り組むかをチョイスするのが良いと思います。
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