情シス狙う“SaaS管理市場”が盛り上がる背景 179億円調達「ジョーシス」の戦い方は:SaaS for SaaSの世界(3/3 ページ)
SaaSの急増に伴い注目されるSaaS管理サービス。しのぎを削るメインプレイヤーたちに取材し、サービスの特徴や戦略を探る。今回はジョーシスに目を向ける。
海外展開にも積極的 狙う立ち位置は
ジョーシスは海外展開にも積極的だ。コロナ禍は、世界中でリモートワークを加速させた。いつまで続くか分からないロックダウン期間の中で、なんとかして事業を継続するために、各企業は急ピッチでリモートワークの体制を整えざるを得なかった。このような環境下で、SaaSの需要は増え、情報セキュリティへの企業の関心はもちろん高まったが、世界共通で大きな課題となったのがITデバイスの手配と配送、管理である。
リモートワークが当たり前になり、入社してくる社員が一度も出社しないで仕事を始めることも珍しくなくなった。出社の必要がなければ住む場所の制約もなくなる。本社からかなり離れた地域や国を生活拠点とすることも可能になった。
日本でも、必要に応じて新幹線や飛行機での通勤を可能にしたヤフーの「どこでもオフィス」の施策により、数百名の社員が1都3県以外の地域へ転居したことが話題になった。英語圏では今まで以上に社員の国籍が多様になり、拠点も世界中に散らばることになった。従業員数が100人未満であるにも関わらず、7カ国に分散しているという企業もある。
リモートワーク前提の場合のITデバイスの手配は、本社でセットアップして郵送するか、現地で社員自身で調達してもらうかのいずれかになる。前者の場合は、社員が居住している場所が国外であれば通関の対応も必要になり、郵送コストもバカにならない。
加えて、郵送トラブルによって入社日までにデバイスが到着しない場合や、郵送中に故障してしまうというリスクもある。後者の場合は、デバイスのスペックやセキュリティの問題もあるため、許容することが難しい企業も多いだろう。
ITデバイスの手配やキッティング、郵送、管理を代行してくれる事業者は、世界各国に存在はするが、それを世界中のあらゆる場所で、一括で対応してくれるサービスというものはこれまで存在しなかった。ジョーシスが狙うのはその立ち位置というわけだ。
横手CPOは「どれだけテクノロジーが進化したとしても、誰かがパソコンのキッティングをして、郵送して、在庫を管理するという仕事をしなければいけないことは、おそらく10年経っても変わらないだろう」と自信を見せる。
“SSOT化”も意識 今後の展望は
もう一つ、ジョーシスが意識しているポイントがある。組織内の全員が同じデータに基づいてビジネスの意思決定を行うことを保証する、ということを表す「SSOT」(Single Source of Truth、「信頼できる唯一の情報源」という意味)という考え方だ。ビジネスインテリジェンスやデータドリブンなどという言葉と共に、現代の経営の意思決定を支える上で必要不可欠なものとして語られることが多い概念でもある。
横手CPOは「情シスの仕事が非効率なのは、SSOTの実現がこれまでは難しかったからではないか」と分析する。ITデバイスの管理台帳、SaaSアカウントの管理台帳などが表計算ソフトで作成され、正しい情報を集約するだけでもかなりのリソースが必要になっているという情シスは少なくない。社員数が数百人を超える中堅企業でも、端末の手配や社内のITヘルプデスクの対応などに追われて、セキュリティ対策やIT投資の戦略策定に満足に時間を使うことも難しい。
ジョーシスは、単なるITデバイスとSaaSアカウントの管理台帳を作るのではなく、企業のIT投資戦略やセキュリティ対策を支えるSSOTとして、情報の真実性や網羅性を担保することを視野にビジネスモデルを構築しているという。
情報を一元管理することで、アカウントの開設や停止などを一括で行うことができるのはもちろんのこと、ITデバイスの手配や管理のアウトソーシングまでが実現できるプラットフォームになる。そうすれば「ジョーシスがないと情シスが困る」という状態になり、ますます情シスに必要な情報がジョーシス上に集約されるようになる──というのが、ジョーシス社の見方だ。
とはいえ、日本発のサービスがグローバルで存在感を示すことは容易ではない。ポストコロナ時代に顕在化したITデバイスとSaaS管理、そしてそれを支える情シスという組織の課題、これらを総合的に解決するという難題の解決にジョーシスがどれだけ食い込めるか、見物だ。
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