「AIガバナンス」の提供ツールは逆効果? 米調査団体「多くのガバナンスツールに欠陥がある」と指摘:事例で学ぶAIガバナンス(2/2 ページ)
EUの閣僚理事会と欧州議会は、AI法案の暫定的な政治合意に達したと発表した。AIリスクの管理が容易になると期待される一方、こうしたガバナンス方法の提案は「本当に社会にとってプラスになっているのか」と疑問を投げかけるリポートが注目を集めている。
仕組みをつくれば一安心、ではない
12月、米連邦議会の調査機関で、連邦政府のプログラムや支出についての監査と評価を行う会計検査院(GAO)は、政府機関におけるAI利用について調査したリポートを発表した。それによると、調査対象となった23の連邦政府機関のうち20機関が「現在実施中もしくは計画中のAI活用事例がある」と報告し、その件数は合計で1200件以上となった。
ところが多くの連邦政府機関において、ルールを満たさない形でAI利用を行っているケースがみられたそうだ。連邦政府機関は「連邦法、行政命令、政策、主要機関のガイダンスによって確立されたAI関連の要件」を実施する義務を負っている。
しかし実際には、行政管理予算局がAI利用に関するガイダンスを作成していなかったり、人事管理局がAIに従事する従業員に関する対応を十分に進めていなかったりするなど、その責任を果たしていない例を多数確認。そのためリポートでは「連邦政府機関は、AIに関する各種の要件や指針を完全に取り入れているわけではなく、実装する過程にある」と指摘している。
米国でも、AIガバナンスに関する具体的なルールの整備が進んだのは最近のことであり、全ての取り組みにおいて「整合性が取れるようにせよ」というのも難しい話だろう。もちろん、だからといってルールを守らなくて良いという意味ではない。ただそれだけAIガバナンスの構築というのは新しい話であり、導入と定着にはまだまだ時間がかかるだろうということを、GAOのリポートは示しているといえる。
それだけに、ガバナンスツールの効果測定にまで至るには、さらなる労力が必要になると予想される。WPFのリポートでは、推奨される取り組みの一つとして「AIガバナンスツールの文書化、レビュー、監査、その他の品質保証手続きを提供し、不適切あるいは非効果的な手法が組み込まれるのを防ぐ」ことを挙げているが、こうした対応を後付けで行うのは難しい。ツールの導入時に、将来を見越して仕組みにしておくことが望ましいだろう。
言われるまでもないかもしれないが、ルールや仕組みをつくればそれで終わりではない。それが期待通りの機能を果たしているかどうか、間違った安心感や偽物の信頼感を生み出すだけに終わっていないか、確認し報告する術も同時に整備しておくことが求められている。
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