「SLIM」、スラスターが1つ脱落しながらも100m精度の着陸に成功していた 運用再開の可能性も【追記あり】
JAXAは25日、小型月着陸実証機「SLIM」について、着陸直前にスラスターの1本が脱落して推力が半減したものの、目標点から55m離れた場所に軟着陸したと発表した。
JAXA(宇宙航空研究開発機構)は1月25日、小型月着陸実証機「SLIM」について、着陸直前にスラスターの1本が脱落して推力が半減したものの、目標点から55m離れた場所に軟着陸したと発表した。LEV-2(SORA-Q)が撮影したSLIMの画像も公開した。
着陸シーケンスを順調にこなしていた。計8回の軌道変更や動力降下フェーズでは異常兆候はみられなかった。「高度50m付近までの着陸降下は非常に良好だったと考えている」(JAXA宇宙科学研究所、SLIMプロジェクトチームの坂井真一郎マネージャ)。
しかし、高度50m付近でホバリング中に推進系に異常が生じた。
データによると、0時19分18秒ごろにメインエンジン2基の合計推力が突然55%程度に低下。また着陸後の温度データからは片側のエンジンが温度上昇が見られなかったため、片側が脱落したと分かった。さらに航法カメラ画像にもそれまで見られなかった光や物体が映っており、「おそらくこれがメインエンジンのノズル部分。何らかの理由で脱落して落ちていったとみられる」としている。
SLIMはトラブルが発生しても冗長性を確保する設計だったため、着陸できない事態は避けられた。しかし降下速度を完全に制御することは困難で、目標地点から東に約55m程度ずれた場所に着陸したという。それでも高度5m付近で小型観測機「LEV-1」「LEV-2」(SORA-Q)を放出した。
接地後の姿勢は「エンジンが上を向いた、ほぼ鉛直の姿勢になっているとみられる。太陽電池パネルは西を向いている」。この時、太陽は東側にあったため、SLIMは発電できなかった。
その後、JAXAは予め決まっていた“異常時の運用”に移行。着陸後45分ほどはマルチバンド分光カメラによるスキャン撮像が行えた。35分で333枚撮る計画だったが、送信機の温度上昇がみられたため、15分で打ち切り。257枚を撮影してダウンリンクすることができた。
運用再開の可能性については、「月面における夕方になれば再開できる可能性がある。(一定以上の発電できれば)自動的にSLIMは起動すると見込んでいるので、毎日数時間程度、通信の確立を試みている」としている。
トラブルはあったものの、100m精度のピンポイント着陸というミッションを達成したSLIM。課題の達成状況(サクセスクライテリア)は、調査中の部分はあるものの、「フルサクセス」に近い状況となっている。
プロジェクトを率いた坂井マネージャは、SLIMの着陸予定地点はクレーターとクレーターの間という難易度の高い場所だったとして、「(他の研究者は)あんなところに行けるわけないと思ったかもしれないが、SLIMは実際に着陸できた。スポーツの世界でも、ある人が記録をやぶると他の人が続くことがある。それと同様、これまでは行けないと思っていたところに着陸して新しい探査を行う人が出てくるのではないか。個人的には、そうしたところに意義があると考えている」と話している。
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