AIは論文発表を変える? 民間企業が“学会で発表する意義” サイバーエージェントなどが議論(2/2 ページ)
企業において、研究開発組織はどのような役割を果たすべきなのか。AIは、研究開発をどう変えていくのか。サイバーエージェントとCygames、パナソニックホールディングスの3社で研究組織を率いる3人が議論を交わした。
目覚ましいAI研究が論文発表を変える?
企業の研究成果の発表は、そもそも論文や学会発表であるべきかという疑問も投げかけられた。特に日進月歩で進展するAI研究の分野では、論文発表のスタイルにも変化が生じている。倉林さんは「OpenAIのようなAIのトップ企業は、ブログが主戦場となっている」とAIにおける環境の変化を指摘する。
AI関連の論文が多く登録されるオープンアクセスリポジトリ「arXiv」では、読みやすさを追求したかのような変化も見られる。倉林さんは「要旨(Abstract)よりも、短いTL;DR(スラングが元で、要約を意味する)を記載している論文があった。ここにも来てしまったのか」と驚きと共に報告した。
また、山口さんの「論文は今後どう変化するか」という問いに対して、倉林さんは「二極化すると思う。新しい研究発表の在り方として、インパクト重視で動画メディアのようなスタイルが現れる一方、研究者の競争軸として論文数やインパクトファクター重視の従来型も消えないだろう」と答えた。
ChatGPT/LLMは研究をどう変える?
AIは研究対象として注目を集めるだけでなく、研究の在り方自体を変える可能性がある。会場からの質問では「論文を書く大規模言語モデル(LLM)が出てきているが、論文執筆に対する影響はどうか」と問われた。
安藤さんは「論文執筆にLLMを組み込むか否か、組織デザインとして、経営判断で考えるべきだろう。スピード重視で研究成果を出したい場合は利用するべきだし、目的が研究者の教育ならあえて自分で書くという選択もありだ」と見解を述べた。
それを受け、山口さんは「要は使いようなのでは。論文に限った話ではなく、おそらく将来の人間はAIネイティブとして育っていく。そのときに、技術や知識をどう残していくのかを考えると、論文以外の何らかのフォーマットで残っている可能性もある」と予想した。
大学で教壇に立っている倉林さんは「学生のレポート執筆とLLMを巡る観点からも、なかなかに深い問題だ」と指摘。「研究という側面だけに限定すると、日本語を母語として成長した人にとって、LLMの登場は、極めて有利な技術進展なのではないか」と続けた。
「自然科学系の論文の大多数は英語で執筆されているため、日本語話者には言語の壁がある。そこでLLMが翻訳を支援すれば、より審査の厳しいジャーナルに論文を通しやすくなるのではないか」というのが倉林さんの考えだ。これらを踏まえて「個人的には学生のレポートでもLLMを活用するべきだと思っている。LLMでレポートの質を上げていくべきだ」と続けた。
さらに倉林さんは「LLMの特性を踏まえて、人類はより高い品質のアウトプットを続けていくべき」と主張。「人類全体の課題として、われわれが直面しているのは、LLMがもう進化しないという課題だ。人間がLLM程度の言語能力しか持たない場合は、LLMはもう品質の高い学習データを得られない。だから、生きている人間は、LLMでは生成できないようなオリジナリティーのある表現をして、その内容をインターネット社会に還元していくべきではないか」と話した。
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