“女性主導の研究論文”は男性主導の論文より引用されにくい? 1億件の論文で調査:Innovative Tech
東京工業大学、ニューヨーク州立大学バッファロー校、神戸大学、京都大学の研究グループは、日本、中国、韓国の学術界における性差の特殊性を明らかにした研究報告を発表した。
Innovative Tech:
このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
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東京工業大学、ニューヨーク州立大学バッファロー校、神戸大学、京都大学の研究グループが発表した論文「Quantifying gender imbalance in East Asian academia: Research career and citation practice」は、日本、中国、韓国の学術界における性差の特殊性を明らかにした研究報告である。
この研究は、1950〜2020年にかけて出版された約1億件の論文を分析し、日本、中国、韓国の研究者数の男女比、個々の研究者の研究キャリア、論文の引用・被引用における性差を検討している。
具体的には、1800万人以上の性別が割り当てられた研究者を対象に分析を行い、その中には中国の約38万人、日本の約126万人、韓国の約34万人、他国の約1600万人の研究者を含んでいる。
分析結果によると、日本、中国、韓国の女性研究者の比率は低く、日本では17.1%、中国では23.2%、韓国では12.9%となっている。
個々の研究者がキャリアを通じて発表した論文数においては、日本での男女差が最も大きく、男性に対して女性は約57%の論文数であった。これに対し、中国では約90%、韓国では約79%であり、日本の女性研究者が発表する論文数が特に少ないことが顕著である。ただし、1年当たりの発表論文数においては、全ての国で性差がほとんどなく、むしろ総じて女性研究者の方が男性研究者よりも若干多い傾向にあった。
研究者としてのキャリアの長さについては、日本、中国、韓国において女性研究者のキャリアが男性研究者よりも短いことが確認された。特に日本では、男性のキャリアの長さに対して女性は約60%の長さにとどまり、中国や韓国、他の国々と比較しても短いことが明らかになった。
これらのことから、個々の研究者がキャリアを通じて発表する論文数が男性より女性の方が少ないのは、キャリアの長さに性差があることに起因すると推測される。
個々の研究者の被引用インパクト(出版した論文の被引用回数に基づく指標で、一般的に、論文が多く引用されるほどその論文は影響力があると見なされる)に関しては、日本では男性が女性よりも高いインパクトを持っているが、中国と韓国では女性が男性よりも高いインパクトを持っていることを示した。
中国、日本、韓国、その他の国の論文著者の研究キャリアにおける男女間の不均衡 (a)個々の研究者がキャリアを通じて発表した論文数、(b)被引用インパクト、(c)1年当たりの発表論文数、(d)個々の研究者としてのキャリアの長さ ピンク色のグラフが女性を、青色のグラフが男性 左の列から順に中国、日本、韓国、他国
最後に、論文の引用・被引用回数に関する性差の分析では、日本、中国、韓国の論文が男性主導の論文を過剰に引用し、女性主導の論文を過少に引用する傾向が強いことが明らかになった。特に日本においては、この傾向が最も顕著であり、中国や韓国、他国と比べても女性主導の論文の引用が少ないことを示した。
ここでいう男性主導の論文とは主要な著者位置(第一著者か最終著者)を男性が占める論文を指し、女性主導の論文とは主要な著者位置を女性が占める論文を指す。
中国、日本、韓国、他国に著者がいる論文による引用の性差 (a)性別の組み合わせに関わらず、全ての論文を含む (b)MM論文(男性が最初と最後の著者である論文)からの引用 (c)MW論文(男性が最初の著者で女性が最後の著者である論文)からの引用 (d)WM論文(女性が最初の著者で男性が最後の著者である論文)からの引用 (e)WW論文(女性が最初と最後の著者である論文)からの引用
これらの結果は、日中韓の学術界における性別不均衡の現状を示し、特に日本における性別差の特殊性を浮き彫りにしている。
Source and Image Credits: Kazuki Nakajima, Ruodan Liu, Kazuyuki Shudo, Naoki Masuda, Quantifying gender imbalance in East Asian academia: Research career and citation practice, Journal of Informetrics, Volume 17, Issue 4, 2023, Article Number 101460, ISSN 1751-1577, https://doi.org/10.1016/j.joi.2023.101460.
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