「Sora 2」が踏んだ虎の尾 国内から怒りの声明続出も、立ちはだかる著作権法の“属地主義”:小寺信良のIT大作戦(2/2 ページ)
米OpenAIの動画生成AI「Sora 2」が日本のアニメキャラクターを無断生成できる問題で、政府や出版社が相次いで抗議。だが日本の著作権法は国内にしか適用されず、OpenAIのオプトアウト方式も技術的限界を抱える。ディズニーは即座に対応したのに、なぜ日本企業は後手に回るのか。AI学習と著作権の複雑な関係を整理する。
基本的には米国頼み
著作権法には、国際的な枠組みもある。ベルヌ条約がそれである。日本も米国もベルヌ条約加盟国であることから、日米の著作物に関しては、相互に保護されることになっている。ただその保護の方法は、属地主義だ。つまり日本の著作物も、米国の著作権法に基づいて保護されるということになる。
米国著作権法にはフェアユースという規定があり、かなり柔軟に著作物の利用が可能だ。問題がある場合は、裁判で決着をつける。つまり最初から法規制があるのでやらないというより、やってから考えるというスタンスである。
米国のIT関連先端企業は、常にこの考え方で動いている。できることはやってしまって、ルールはあとから考えればいいというマインドで事業が発展している。
一方で米国には、強力な著作権ホルダーが存在する。ディズニーとハリウッドだ。「Sora 2」はこれらの著作権ホルダーを刺激しないよう、公開前に事前に情報を伝えたのではないかといううわさがあったが、実際には確認されていない。
10月8日には全米映画協会(MPA)が、「Sora 2」のオプトアウトシステムに対して「即時かつ断固とした対応」を求める声明を発表している。MPAはディズニーを含むハリウッド主要スタジオや、Netflixなどのストリーミング配信事業者からなる業界団体である。
この声明では、著作権侵害を防ぐ責任は権利者にではなく、OpenAI側にあるとしている。つまり権利者の申請によってオプトアウトするのではなく、OpenAI自身が権利侵害を認識して自ら即時オプトアウトせよ、という話だ。
米国の著作権法には、日本のように機械学習に対しては許諾不要という規定はなく、フェアユースでないなら権利者側に事前の許諾を得なければならないという建て付けになっている。
実際に生成AIの学習に関して、事業者に対する著作権侵害訴訟はすでに始まっている。今年6月には、生成AI「Midjourney」に対して、ディズニーとユニバーサルが、9月にはワーナーが訴訟を起こしている。OpenAIも、MPAが求める「即時対応」を行わない限り、訴訟を起こされる可能性は高い。
それと並行してディズニーは、ディズニーキャラクターが生成できないよう、OpenAIに対して即時オプトアウトを申請した。オプトアウトは、キャラクターごとに個別に申請しなければならないため、その数は膨大な数に上るだろうが、速攻性がある対応ではある。
実際問題、すでに学習してしまったAIに対して、オプトイン方式に変更しろと求めても、もう遅いのではないだろうか。オプトインには、覚えたものを忘れろ、という権限はない。
筆者はAI技術者ではないが、一般論として技術的な推論をすれば、AI学習に対してオプトイン方式はなじまないのではないかと思う。学習しない範囲を指定することは、決められたサーバ内のディレクトリ内から学習するだけなら可能だろうが、インターネット全体を対象とする学習に対して、範囲指定できるのだろうか。
例えばディズニーのサイトは学習しないように指定したとしても、ECサイトに商品は並んでいるし、他のサイトに広告出稿などしているなら、そちらにもディズニーキャラクターは存在する。
キャラクターを認識した上で学習しないという方法論を取るなら、まずはキャラクターを学習しなければ認識ができないという矛盾が発生するのではないか。
今年9月に、米Anthropicを被告とする著作権侵害訴訟で和解が成立し、少なくとも15億ドルの和解金が支払われると報道された。これはAnthropicが、海賊版リポジトリから著作物を取得し、「Claude」の学習に使用したことが著作権侵害に当たると判断されたものだ。Anthropic側もまともな弁護士を雇っているなら、海賊版サイトから学習すればフェアユースは成立するはずはないと認識していたはずだ。よって故意ではなく、自分たちではそもそも学習先を制御できなかったのではないかという疑問が残る。
オプトインがAI開発者側でもコントロールできないのなら、最初からオプトアウト方式であると宣言するしかない。だからOpenAIがそうしたわけだ。
実際オプトアウト方式なら、出力をフィルタリングによって制限するだけなので、制御は可能だ。現実に「Sora 2」でディズニーキャラクターが生成できない時点で、これが機能しているのが分かる。
著作権ビジネスは、金を払わないなら使わせないというライセンスビジネスなので、使う前に契約するのが普通である。権利者団体からしてみれば、学習段階で止めるのがルールということだろう。
一方で、出力結果に対する著作権侵害も視野に入れることもできるはずだ。1つの考え方は、保護される著作物と類似したキャラクターを生成してネットに公開したアカウントを、個別に訴えるという可能性だ。AIを使ってこのような行為をしたユーザーをクローリングさせれば、リストはすぐにできるだろう。
他の考え方として、米国でOpenAIを相手取った裁判が起こるのであれば、集団訴訟という形にして日本の権利者もそれに加わるということも考えられる。実行にはいくつかハードルはあるものの、過去に実例はある。
OpenAI側の対応がいつになるのか明示されていない現時点において、権利者にできることはガンガンにオプトアウトリストを送りつけることだ。
皮肉なことにこうした面倒な作業には、OpenAIが公開した「ChatGPT Atlas」のエージェントモードは、かなりの戦力になるはずだ。なに、多少間違いがあってもどうせ相手もAIが対応するのだから、気にすることはない。
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