“脳のごみ”洗い流す量を10%弱増加させる薬の配合特定 人間で世界初の実証、認知症予防に 米チームが研究発表:Innovative Tech
米バイオテクノロジー企業Applied Cognitionや米ワシントン州立大学などに所属する研究者らが発表した論文「Pharmacological enhancement of glymphatic function in humans increases the clearance of Alzheimer’s disease-related proteins」は、睡眠中の脳に備わる老廃物排出システムを薬で強化し、アルツハイマー病の原因タンパク質の排出を促進できることを人間で初めて実証した研究報告だ。
Innovative Tech:
2019年にスタートした本連載「Innovative Tech」は、世界中の幅広い分野から最先端の研究論文を独自視点で厳選、解説する。執筆は研究論文メディア「Seamless」(シームレス)を主宰し、日課として数多くの論文に目を通す山下氏が担当。イラストや漫画は、同メディア所属のアーティスト・おね氏が手掛けている。X:@shiropen2
米バイオテクノロジー企業Applied Cognitionや米ワシントン州立大学などに所属する研究者らが発表した論文「Pharmacological enhancement of glymphatic function in humans increases the clearance of Alzheimer’s disease-related proteins」は、睡眠中の脳に備わる老廃物排出システムを薬で強化し、アルツハイマー病の原因タンパク質の排出を促進できることを人間で初めて実証した研究報告だ。
アルツハイマー病の発症には、脳内にアミロイドβやタウと呼ばれるタンパク質が異常に蓄積することが深く関わっている。脳には、睡眠中にこれらの不要なタンパク質を洗い流す「グリンパティック系」という浄化システムが備わっていることが近年の研究で明らかになっている。
しかし、人間の体内において、薬の力でこのシステムを意図的に活性化させ、実際に原因タンパク質の排出を促せるかどうかは、これまで実証されていなかった。
今回、研究チームは、特定の薬の組み合わせによってこの浄化システムを強化し、アミロイドβやタウの排出量を増加させることに成功した。
研究チームは当初、眠りを深める鎮静薬「デクスメデトミジン」(DEX)という薬を健康な高齢者に投与する臨床試験を行った。脳波上では深い睡眠が増加したものの、同時に全身の血圧が低下する現象が生じた。血圧が下がると、脳は一定の血流を維持しようとして脳内の血管を広げる。
しかし、血管が拡張すると、そのすぐ外側にある不要物の通り道(血管周囲腔)が圧迫されて狭くなってしまう。その結果、体液の流れに対する抵抗が高まり、期待されたタンパク質の排出効果は得られなかった。
この問題を解決するため、チームは血圧の低下を防ぐ薬である「ミドドリン」を組み合わせた「ACX-02」という新しい配合剤を用いた試験を実施した。ミドドリンは脳には直接作用せず、末梢の血管に働いて全身の血圧を維持する役割を持つ。
高齢者を対象に、4時間15分の睡眠機会を設け、その間にACX-02を投与したところ、血圧を正常に保ったまま深い睡眠を増やすことができた。これにより、脳血管の拡張による通り道の圧迫を防ぎつつ、脳液の循環をスムーズにするという、タンパク質の排出に理想的な環境を作り出すことに成功した。
実際に血液中の成分の動的変化を分析した結果、1回の睡眠セッションの間に、脳から血液へ排出されるアミロイドβの排出が8.45%、タウの排出が9.66%増加したことが確認された。
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