通勤「44分」がメンタルヘルスの分岐点 それ以上は苦痛、それ以下は息抜き効果 共働き労働者500人以上を調査 米国チームが研究発表:ちょっと昔のInnovative Tech
米ウェイン州立大学に所属する研究者らが発表した論文「A Time to Unwind or Despair? Decoding the Impact of Commuting Duration on Psychological Distress」は、通勤時間と労働者のメンタルヘルスの関係を調査した研究報告だ。
ちょっと昔のInnovative Tech:
2019年の開始以来、多様な最新論文を取り上げている連載「Innovative Tech」。ここではその番外編として“ちょっと昔”に発表された世界中の個性的な研究論文を独自視点で厳選、解説する。執筆は研究論文メディア「Seamless」(シームレス)を主宰し、日課として数多くの論文に目を通す山下氏が担当。イラストや漫画は、同メディア所属のアーティスト・おね氏が手掛けている。X:@shiropen2
米ウェイン州立大学に所属する研究者らが発表した論文「A Time to Unwind or Despair? Decoding the Impact of Commuting Duration on Psychological Distress」は、通勤時間と労働者のメンタルヘルスの関係を調査した2025年1月の研究報告だ。
新型コロナウイルスの世界的流行により、リモートワークが一時急速に普及した。しかし現在多くの企業でオフィス回帰が進んでおり、通勤は再び働く人々の日常の一部となっている。
通勤は、心理的健康に悪影響を及ぼす慢性的なストレス要因として捉えられてきた。しかし近年、通勤には仕事と家庭の境界を切り替えるための移行期間として機能し、心理的負担を軽減する肯定的な側面がある可能性が指摘されている。
研究チームは、この通勤時間と心理的苦痛(抑うつや不安などのメンタルヘルス不調)との関係を解明するため、2019年11月から20年3月にかけて、米国在住の共働き異性カップルのフルタイム労働者568人を対象に横断的調査を行った。調査対象者の統計的属性は、人種は白人が73%を占め、70%以上が学士号以上の学歴を持ち、世帯収入の中央値は15万ドルという層となっている。
分析の結果、片道の通勤時間と心理的苦痛の間にはU字型の非線形な関係があることが判明した。具体的には、通勤時間が約44分に達するまでは、時間が長くなるにつれて心理的苦痛が減少し、44分を超えると逆に苦痛が増加に転じた。
これは、適度な通勤時間が、仕事と家庭という異なる領域を行き来する際の有意義な移行時間、すなわち息抜きの場として機能していることを示唆している。
さらに、このU字型の関係は普遍的なものではなく、仕事のプレッシャーが高い人において顕著に表れることが分かった。また、パートナーと比較して家事労働の負担が中程度以上の人においても、同様のU字型の関係が確認された。
このような高い負担を抱える人々にとっては、短い通勤時間は頭を切り替えるための緩衝材となる。一方で、通勤時間が長くなると、ただでさえ不足している時間や精神的リソースがさらに奪われるため、タスクが進まず、メンタルヘルスを悪化させる要因となるとみられる。
また、社会構造上、女性の方が家事や育児の負担を多く担い、結果として心理的苦痛を感じやすいという背景が、この調査では、通勤時間と負担の度合いがメンタルヘルスに与える影響において、性別による有意な差は見られなかった。
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