光ファイバーを“マイク化”する盗聴攻撃 振動センサーとして悪用し会話を盗み聞き 中国の研究者らが発表:Innovative Tech
中国の香港理工大学や香港中文大学などに所属する研究者らが発表した論文「Hiding an Ear in Plain Sight: On the Practicality and Implications of Acoustic Eavesdropping with Telecom Fiber Optic Cables」は、通信データではなく、光ファイバー自体を振動センサーとして悪用し、周囲の音を盗聴するサイドチャネル攻撃を提案した研究報告だ。
Innovative Tech:
2019年にスタートした本連載「Innovative Tech」は、世界中の幅広い分野から最先端の研究論文を独自視点で厳選、解説する。執筆は研究論文メディア「Seamless」(シームレス)を主宰し、日課として数多くの論文に目を通す山下氏が担当。イラストや漫画は、同メディア所属のアーティスト・おね氏が手掛けている。X:@shiropen2
中国の香港理工大学や香港中文大学などに所属する研究者らが発表した論文「Hiding an Ear in Plain Sight: On the Practicality and Implications of Acoustic Eavesdropping with Telecom Fiber Optic Cables」は、通信データではなく、光ファイバー自体を振動センサーとして悪用し、周囲の音を盗聴するサイドチャネル攻撃を提案した研究報告だ。
インターネットの基幹や家庭に広く普及する光ファイバーケーブルは、電磁波を放射しないため盗聴リスクの低い安全な通信媒体とされてきた。しかし研究チームは、光ファイバーそのものをマイクとして利用し、室内の会話や生活音を遠隔から盗み聞きする手法を実証した。
光ファイバーは外部からの圧力や振動でごくわずかに変形し、内部を通るレーザー光の位相にズレを生じさせる。近年、この性質を利用して振動を検知する「分散型音響センシング」(DAS)という技術が実用化されているが、研究チームはこれを音声の復元に応用した。
ただし、直線的に敷設しただけのケーブルでは人間の声などの微小な空気振動を捉えるのは困難だ。そこで研究チームは、直径65mmのPET素材の中空円筒にケーブルを15mほど巻きつける構造(Sensory Receptor)を考案し、集音感度を大幅に向上させた。
この手法は、光回線が部屋まで直接引き込まれる「FTTH環境」において新たな脅威となる。攻撃者が被害者の部屋の余剰ケーブルボックス内にこの円筒構造を隠し、離れた回線の分配拠点などからDAS装置を接続すれば、ひそかに室内を監視できる。
攻撃の全体像。攻撃者は被害者宅の光ファイバー収納ボックス内にケーブルを巻きつけた円筒構造(Sensory Receptor)を仕込み、離れた分配拠点(ODN)からDAS装置を接続して室内の音を盗聴する
実験では、生活音の分類や音源位置の特定に成功したほか、AIと組み合わせることで、2m離れた人間の会話を約80%の情報保持率で復元できたという。
さらに、電気的なマイク部品を持たず物理的な振動を光で読み取るこの手法には、従来のマイク盗聴を防ぐための超音波ジャマーがほとんど効かないことが確認されている。
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