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後編
普通紙でレーザープリンターに匹敵する画質、耐久性、低コストを実現
「IPSiO G707」レビュー
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RICOH
IPSiO G
ビジネス・インクジェットプリンターの新標準IPSiO Gシリーズを徹底解剖する
前編(1/4)
【前編】まず理想のインクありき。目標通りの性能を達成した「IPSiO G707」開発者インタビュー

オフィス向けインクジェットプリンター市場という前人未到の分野を切り拓くために登場した、リコーのIPSiO Gシリーズ。技術的課題はいかにして克服されたか? 開発者に聞いた。
(本田雅一)

 コンシューマ向けプリンター市場で大きな位置を占めるインクジェットプリンター。しかしオフィス向けプリンターとしては、デスクサイドに置く補助用のカラープリンターといった地位を抜け出すことができていない。インクジェットプリンターは、構造的な単純さや省電力性、設置性などに優れていることなどが評価されながらも、コンシューマ向け専用機のように扱われてきた。

 ところがオフィス向けプリンターのトップブランドのひとつ、リコーはオフィス用途にフォーカスしたインクジェットプリンター新製品を発売。いや、単に発売しただけではない。並々ならぬ自信とともに、オフィス向けインクジェットプリンターという未開の市場を拓くというのだ。

 その自信の背景に何があるのか?

 リコーの設計開発部門で、新製品のIPSiO Gシリーズ開発に携わったIS開発室永井氏(サプライ、ビスカスインク開発担当)、商品開発室水木氏(メカ制御ソフトウェア、電気回路、ファームウェア、ユーティリティ、ドライバ開発担当)、商品開発室太田氏(新型ヘッド、およびヘッド保護・維持機構開発担当)、商品開発室糠谷氏(開発リーダーでメカ設計担当)、西岡氏(商品企画担当)らに話を伺った。

まず理想のインクありき、で始まった開発
左:IS開発室の永井氏(サプライ、ビスカスインク開発担当)、右:商品開発室の水木氏(メカ制御ソフトウェア、電気回路、ファームウェア、ユーティリティ、ドライバ開発担当)

 IPSiO Gシリーズは、アクチュエータとしてピエゾ(圧電素子。電圧を加えることで変形する)を用いたマイクロポンプを並べ、それによってインクを吐出する方式のオンデマンドインクジェットプリンターだ。

 インクジェットプリンターには大きく分けて、ヒーターでインクを熱し、そこで発生する蒸気爆発のエネルギーをアクチュエータとして利用するサーマル方式と、IPSiO Gが採用するピエゾ方式の2種類がある。それぞれに長所と短所があるが、ピエゾ方式の長所として際だっている点のひとつに、機械的な動作で吐出するため、インクの種類を選ばないことがある。

 リコーは5年前にもオフィス向けインクジェットプリンター(IPSiO JET 300)に挑戦したことがあった。そのときに採用されていたのも、やはりピエゾ方式のヘッドだった。まずは“ピエゾありき”。その特徴を活かすために、新しいGELJETビスカスインクが開発されたのだろうか?

「いえ、インクジェット方式に関しては後から考えました。我々は5年前にもインクジェットプリンターを世に送り出しましたが、市場からは受け入れてもらうことはできませんでした。その最大の理由は、普通紙においてレーザープリンター並のクオリティや性能を出すことができなかったことにありました。そしてそれを解決するには、普通紙に最適な理想のインクを開発する必要があると考えたのです。ですから、“まずヘッド技術ありき”ではなく、“まずインク技術ありき”だったと言えます。我々の開発した普通紙に最適化された、粘度と浸透性が非常に高いインク。それを飛ばすためにピエゾ方式が最適だったわけです」

 新インクと言っても、世界中でインクメーカーが多様なインクを開発し、競い合っている。その中でリコーだけのユニークな特徴はどのようにして生まれたのだろう?

「まず我々が目標としていたのは、普通紙において高速かつ高画質を実現できるインクです。染料、顔料といった色材の種類で言えば、顔料が適しています。染料はどうしても普通紙では滲んでしまいます。しかしもう一方の顔料には、速乾性の低さと擦過に弱いという弱点がありました。そこで浸透力の非常に高い速乾性の顔料インクを開発したのです。今回の製品開発プロジェクト(αタスクフォース)では、前述したように普通紙の印刷クオリティでこれまでにない製品を、という“あるべき姿”が最初に存在していましたから、その目標を達成するためのインクも、自ずとその姿が最初から見えていました」

 普通紙に最適と言われても漠然としている、具体的にはどのような発想で作られているのだろうか?

前列に並ぶのがGELJETビスカスインク

「まず、インク中の色材濃度が従来の常識からは考えられないほど高くしています。顔料で色材濃度を上げ過ぎると、彩度が上がりにくく色再現域が狭くなるのですが、GELJETビスカスインクでは鮮やかさも失わないようにしています。次に水分量が極端に少ない。実際にフラスコに入ったインクを見てもらうとわかると思いますが、水分量が少ないため粘度が非常に高い。従来の2〜4倍の粘性があります。しかも、緩浸透インクではなく超浸透インクで乾きが早いのです」

「それによって得られた結果が、IPSiO Gシリーズの特徴を決定付けていると言っても過言ではありません。また実際に理想とするインクを開発してみると、予想を超えた特性があることにも気付きました。GELJETビスカスインクは、用紙上に着弾するとジェルのように粘っこい物体に変化するのです。通常、水分がインクから抜けると固着しますが、このインクはある程度柔らかいままの状態を保ちます。これにはインク溶剤と色材が深く関係しているのですが、固着しないためにノズルが詰まらないのです。万一、ヘッドが乾燥してしまっても、ヘッド自身の力で復旧可能という信頼性の高さを実現できました」

試験時にインクが付着した維持機構ユニット。粘性の高さを示している

「しかも粘性が高いままで定着することで、用紙上に色材がとどまりやすく(=普通紙コントラストの向上)、インクが裏に抜けにくい(=両面印刷適応性の向上)。印刷速度を上げてもインクが広がらず(=普通紙でも滲まない)、印刷後の擦過によるかすれも起きにくい」

「実は以前にインクジェットプリンターを開発していた時から、このようなインクがあれば普通紙性能を飛躍的に向上させられることがわかっていましたが、当時はこれほど粘度の高いインクを飛ばす技術がありませんでした。プロジェクトスタートのかなり早期段階で、このインクを完成させています。その後は、普通紙印刷用インクの理想型として開発したGELJETインクを、いかに上手に飛ばすかに取り組んだのです」

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