「ThinkPadは変わらない」――IBM内藤フェロー
PC事業売却後、品質が低下するのではと心配されている「ThinkPad」だが、開発陣は全員Lenovoに移り、製品のチェック体制もIBMと同じ基準を維持するため、品質低下はありえないという。
「ThinkPadは変わらない」――12月17日、LenovoへのPC事業売却について、米IBMのPC開発責任者のピーター・D・ホテンシャス氏(パーソナルシステムズグループ プロダクト&オファリング担当バイスプレジデント)と、同社フェローの内藤在正氏が来日して説明した。
ノートPC「ThinkPad」やデスクトップPC「ThinkCentre」開発陣はまるまる新会社に移行し、品質チェック体制もIBMと同じ基準を維持。サポートはIBMが行うため、信頼性は低下しないと強調する。コンシューマーやスモールビジネスなどLenovoが強い分野向けに、新製品も開発したいと意欲を示した。
IBMのPC開発担当者は、LenovoのPC事業担当新会社に移る。ThinkPadの開発責任者を2003年まで務めた内藤氏も、フェローとしてLenovoに移る予定だ。来年第2四半期をめどに設立するLenovo日本法人にも、日本IBMのPC開発担当者とマーケティング・営業担当者がそのまま移るという。
内藤氏によると、ThinkPadを開発する日本の大和事業所(神奈川県大和市)の研究者も、Lenovoへの移行をポジティブにとらえているという。「ThinkPadの開発者が作りたいのは、IBMのPCではなくThinkPad。新会社への移行で、これまでIBMが参入していなかった分野に土俵が広がり、ThinkPadでも新しいことができる」(内藤氏)。
ホテンシャス氏は、「Lenovoは中国PC市場のイノベーションリーダーだ。両社の技術者が協力してよりよいPCを開発できるだろう」と、開発力は強まるはずだと強調する。
開発拠点は、IBMの米ラーレー研究所(ノースカロライナ州)、日本の大和事業所に、Lenovoが中国各所に持つ拠点が加わる。
「中国の基準で見ると、大和事業所は高コストで非効率に映るのでは?」との質問に対してホテンシャス氏は「大和事業所はPC開発の“Crown Jewel”(王冠の宝石)で、重要拠点」との認識。コスト削減のための整理統合などは考えにくいとした。内藤氏は「高付加価値品の開発は日本が強い」とし、今後もハイエンド製品の開発を大和で担当したいとした。
PC開発への投資額も「減らす計画はない」(ホテンシャス氏)。今後、重複分野を整理し、開発を効率化することは考えられるものの、投資額は減らさず高品質を維持する姿勢を示した。
AV機能搭載も?
新会社移行後は、IBMのラインアップになかったスモールビジネスやコンシューマー向け製品も開発したい考え。AV機能付きPC開発にも意欲的だ。「コンシューマー、ビジネス向け双方で、AV機能は必須になりつつある」(ホテンシャス氏)。AV機能搭載PC開発に向け、他社と提携する考えも示した。
「ブランドイメージは低下しない」
Lenovoは5年間、IBMロゴを使用する権利を得ているが、これがIBMのブランドイメージ低下にはつながりかねないとの指摘もある。ホテンシャス氏はこれに対し「両社は大きな相互依存関係にある。IBMのイメージを傷つけないよう、Lenovoも慎重に使うはず。加えて、IBMからLenovoに移るスタッフが、ブランドイメージを維持できる」とした。
「単なる売却ではなく、強力な提携だ」
今回の売却は、不採算部門を単純に切り離すのではないとホテンシャス氏は強調する。「これはIBMとLenovoの、強力で排他的な提携だ」(ホテンシャス氏)。
大規模ビジネスや高付加価値分野に強いIBMと、コンシューマーや小規模ビジネス、低価格機に強いLenovoが相互補完して対象マーケットを広げ、資源を集中投資して開発スピードを上げることが目的だとした。
統合によりLenovoは、中国市場で30%のシェアを持つPCトップメーカーになる。IBMの営業力とLenovoの効率的な流通基盤を足し合わせ、競争が激化する中国市場で存在感を増したい考えだ。
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