歴史に残る重要な転換点だった「中華PC2007」:山谷剛史の「アジアン・アイティー」(2/2 ページ)
「お祈りパンダ」に始まって、Wiiならぬ「Vii」まで飛び出した2007年の中華IT界。PCに限ってみても、地味ながら大きく変化した1年だった。
普及が進んで淘汰が始まった中国PCメーカー
中国のメーカー製PCというと、インストールされているのはOSのみ、製品によってはOSすら導入されていないのが普通であったが、その状況も2007年になって若干変わってきた。3月にはマイクロソフトとレノボが、今後登場するレノボ製PCに「MSN サーチ ツールバー」をインストールしてMSNをホームページに設定した状態で出荷することで合意し、10月には企業間電子商取引部門が日本にも進出している大手企業「アリババ」とファウンダーの間で、ファウンダーのビジネス向けPC「商祺」にアリババが提供するサービスを利用するためのユーティリティツールをインストールして出荷する内容の提携が結ばれた。
海賊版問題で頭を悩ませている中国だけに、2008年にはこのような動きがよりいっそう強まると予想される。日本のメーカー製PCと同じぐらいとはいわないまでも、インストールソフトが増えて「本当は嫌なんだけど海賊版を導入せざるを得ない」という状況から少しは脱却できるのではないかと期待されている。
上海や北京のような主要大都市である程度PCが普及したおかげか、2007年のPC市場は、地方都市における中国PCメーカーのシェア争いが激しかった。一方、通販だけでもシェアを確保していたデルが中国最大の電器店チェーンの「国美」と9月に提携して、中国でも店頭販売に進出した。その一方で、大手電器メーカーTCLが、PC事業部門「TCL電脳」の売却を発表した。TCL電脳は中国のPCメーカーとしては中堅であったが、巨大市場と思われていた中国でもPC業界のリストラが起こり始めたのである。オリンピック景気が期待されている2008年だが、脱落するPCメーカーが意外と出てくるのではないだろうか。
中国独自規格は2008年に“無理やり”開花する
2007年の1月に掲載した記事では、筆者が購入した中国独自開発の次世代光メディア規格「EVD」に対応したプレーヤーの話を紹介した。2007年になって、EVDを紹介する記事はますます少なくなり、HD DVDの中国版「CH DVD」(HD DVDで採用されている一部コーデックを中国で開発された独自技術に変更したもの)が登場すると、一気に見かけなくなってしまった。2006年の今ごろに「2008年までにプレーヤーメーカー各社がDVDから撤退し、EVDプレーヤーだけを生産する」と宣言して、華々しく“再出発”したはずのEVDは静かに終息を迎えそうだ。ただ、対応コンテンツがめったにリリースされない状況においても、EVDプレーヤーはそこそこ売れているようで、中国最大手の家電販売チェーン「国美」のプレーヤー部門販売ランキングにもEVDプレーヤーが顔を出している。
EVDに象徴されるように、2006年に相次いで登場した中国独自の新規格は、そのどれもが注目されることなく2007年を終えようとしている。MP4の統一規格は各メーカーが妥協しないため頓挫し、携帯電話の充電器の統一規格もいつの間にか立ち消えた。
しかし、2008年には、北京オリンピックという絶好のアピールチャンスが待っている。「TD-SCDMA」や「WAPI」「CH-DVD」といった中国独自開発の新規格が“強引に”開花することも十分ありえる。
しかし、そういう動きとはまったく関係なく、筆者をはじめとする多くのPCユーザーは、各メーカーが「確実に」投入するだろう、“北京オリンピック限定記念モデル”に、より大きな期待を持っていたりなんかしちゃったりして。
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