シュークリームから生まれた新「LaVie J」のたたずまい:青山祐介のデザインなしでは語れない(3/3 ページ)
語られるようでいて実は語られていない、PC・周辺機器のデザインにフォーカスした本連載。新しく生まれ変わったNECのLaVie Jの秘密に迫る。
シュッとしているLaVie Jのたたずまい
河崎 よく関西の人が、格好よく、スマートに見えることを“シュッとしてる”といいます。新しいLaVie Jはまさにそれで、小脇に抱えて持っているとシュッとして見えませんか? これがデザインの要なのです。何もデザインされていない感じの「ただの四角くて黒いツヤのある箱」に見えることが重要で、それが“シュッ”とした感覚を生み出すのです。
この“シュッ”としたデザインへのこだわりは、プレーンな黒いモノフォルムだけではない。「NEC」というロゴマークも、あえて目立たないように成型を凹ませるだけの表現にとどめている。これは従来のNECのPCにはほとんど見られないもので、河崎氏によると可能であればロゴはPCとして使うときだけ見えるようにしたかったという。持ち歩く際に見える底面も完全にフラットにし、さらに河崎氏のこだわりは、薄く見えることよりもスッキリとしたフォルムを優先させたのである。
河崎 これまでのモバイルノートPCのデザインでは、PCが薄く見えるよう手前を傾けたり曲面をつけたりする手法をよく用いるのですが、これをやってしまうとそこに新しい面ができてハイライトが入ってしまい、すごく“モノ臭さ”が出てきてしまうんです。そうするとインテリアに調和しなくなるし、急に大衆化してしまうんですね。デザインの検討会議の後になって、社長に「この方法を取り入れれば、ちょっとでも薄くできるんじゃないか?」と指摘されましたが、私に言わせれば「まだそういうことを言うのですか?」という感じで、聞く耳を持ちませんでした(笑)。
よいデザインとは普通のラーメンである
河崎氏の言葉の中にある、「何もデザインしていない」ということは、もちろん文字通りの意味ではなく、そのように見えることを狙ってデザインしているというのは言うまでもない。こういったデザインへのアプローチは、時代がデザインの本質を求めている、という河崎氏。バブルの時代はとにかく登場感が必要であったため、何かと見た目を重視した造形がなされていた。それが今の時代は、1人が1台ずつPCや携帯電話を持つようになって、さまざまな空間や環境の中でそこに溶け込ませるバランス感覚が求められている。PCのデザインをするというより、むしろそれ以外の部分をデザインする感覚に近いと河崎氏は語る。
河崎 モバイルユーザーにとって、食事とPCの関係は密接です。食事をとる際に、傍らにあるPCがいかにもPCという銀色のメカメカしいデザインだとメシがまずくなりませんか? 新しいLaVie Jは隣にあってもまるで黒色の漆塗りの器があるように見えてメシがうまいんです! この感覚が、本質をデザインするということです。みなさんも無意識でこのことを感じ取っています。
こういったリアリティのあるデザインというものに河崎氏はこだわっていて、新しいLaVie Jのデザインワークの中では、ケーブルをスッキリと収められるACアダプタや、光沢面を磨き、キーボードを掃除できるクロス、携帯電話のようにサブディスプレイがあって、そこに時計やさまざまな情報を表示できるアイデア、PC本体に収納できる超小型のマウスといった、まさにあったら役に立つデザインのアイデアを暖めている。
LaVie Jをはじめ、河崎氏が手がけるノートPCのデザインとは、本当に日常の生活でLaVie Jを使う人のリアリティを見て、そこから本質的なものを取り出し、それをバランスよくデザインすることだという。デザインするというよりも整理整頓して収める、ということだとも河崎氏は付け加える。
河崎 これから出てくるNECのPCに期待してください。ただ、難しいのは、いいデザインと売れるデザインは違うということ。僕の持論は、売りやすいとか売りにくいデザインはあるけれども、いいものはちゃんと真剣に売れるまで売れば、絶対に売れると信じています。また、デザインがよければよいほどバランスがよくなって、デザイン的にとんがったところや引っ掛かりがなくなっていきます。これは料理に例えると、一番普通のラーメンでしょうか。カニも入っていなければ、分厚いチャーシューも入っていない、普通のラーメンになっちゃうんです。でも、毎日食べるんだったら、そういうラーメンのほうがいいと思うんですよね。
シュークリームに始まり、ラーメンで終わった今回のインタビュー。ユーモアあふれる語りで楽しませてくれた河崎氏だが、そのまなざしは真剣そのものだ。これまでの工程を変えて、あえてNECらしくない手法で取り組んだ新LaVie Jだが、その成果は“シュッとしている”という言葉に集約される。新LaVie Jでは実現できなかったアイデアがまだまだあるという河崎氏の、ひいてはNECの今後の製品に注目していきたい。
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