次の波は2011年に来る──Analyst Dayに見るAMDの進化速度:元麻布春男のWatchTower(2/2 ページ)
45ナノプロセルルールを導入した“Shanghai”が発表された11月13日に、AMDは「Analyst Day」を行った。ここでは、そこでアップデートされたロードマップを紹介しよう。
Fusion→APUの波は2011年に来る
Tigrisに対応するCPUの“Caspian”は、現行の“Griffin”を45ナノプロセスルールにシュリンクしたもので、GPUは内蔵しない。2010年に登場する予定のプラットフォームである“Danube”に対応するCPUの“Champlain”は、Caspianのクアッドコア版であり、やはりGPUを内蔵しない。2世代目の45ナノプロセスルールCPUでコアを増やすというのは、サーバにおけるShanghaiからIstanbulへの進化とまったく同じだ。
これに対し、“Shrike”はCPUとGPUを統合した“Swift”を利用するプラットフォームとされていた。当時、“Fusion”と呼ばれたGPUを統合したCPUだが、クライアントPC向けCPUのロードマップでも分かるように、現在、AMDはGPUを統合したCPUを「APU」(Accelerated Processing Unit)という名称で呼んでおり、Fusionというフレーズは、企業のキャッチフレーズ、あるいはエンスージアスト向けのゲーミングユーティリティに使われている。このことからも分かるように、AMDが進めていたCPUとGPUの統合は、当初の予定であった2009年から2011年の“Liano”と“Ontario”の登場まで2年も延期されたことになる。
このAPUの延期とロードマップにおけるAtom対抗CPUの不在は、同じ理由によるものと考えられる。それが、製造戦略とそれに関した判断の変更だ。AMDは製造部門を別会社(暫定的にThe Foundry Companyと呼ばれている)へ分離し、The Foundry Companyはいわゆるファウンダリ事業(他社が設計した半導体の受託生産事業)へ進出することを明らかにした。この発表では、The Foundry Companyが従来のSOIウェハ技術だけでなくバルクウェハについてもIBMが主導する共同開発グループ入りすることを明らかにしている。
2008年10月に、ARMがIBMの製造技術に関する共同開発グループである「Common Platform」(IBM、Charterd、Samsungで構成される)へIPコアを提供すると発表したときに、IBMが示した資料では、半導体の開発と製造に関する複雑なIBMの協力関係が紹介されているが、そこでは、AMD(The Foundry Company)とIBMのパートナーシップが、研究分野(Research)と高性能SOIの開発分野に限られていた。しかし、現在ではFoundry bulkの分野への参加も表明している(さらに製造技術にまで踏み込むかもしれない)。
AMDはこれまでバルクウェハの微細化プロセス技術について自社で手がけておらず、バルクウェハを利用したGPUやチップセット(これはATI Technologiesの製品も含まれる)はTSMCやUMCに生産を委託していた。しかし製造部門を分離し、The Foundry Companyがファウンダリ事業を展開するには、バルクウェハのプロセスは不可欠で、かつ、自社で手がけなければならない。ただ、これにより、自社(分離したThe Foundry Companyだが)でGPUやチップセットの生産も可能になるわけだ。
AMDは、このあたりの生産品目と製造技術、製造施設の関係も明らかにしているが(Fab 4xはニューヨーク州に建設予定の前工程工場)、そこでは、APUは外部に生産委託せず自社工場で生産すること、製造プロセスはSOI&バルクとされていること、そして、Fab 36は全量SOIウェハを扱うであろうことが見て取れる。Fab 38とFab 4xはSOIとバルクの両方を扱う可能性が高い。これから増強されるこの2カ所のFabでは、Fab 38(旧Fab 30)が2010年の量産稼働を、Fab 4xが2012年の量産稼働をそれぞれ目指すとされている。
当初の予定通り、2009年にAPUであるSwiftを出すには、Fab 36のSOIプロセスを使わなければならない。しかし、2011年までAPUの投入を遅らせれば、自社のバルクプロセスが技術的にも生産施設的にも間に合う。高価格なSOIウェハをベースにしたSwiftではMini Notebook向けAPUのベースになれないが、Ontarioがバルクウェハを用いるのであれば、簡略化してMini Notebook用APUへ転用することも可能だろう。
そういうわけで、32ナノプロセスルールの波も2011年に来る
Analyst Dayで行われたAMDの製造プロセスに関するプレゼンテーションでは、3種類の32ナノプロセスルールを開発中であることが紹介された。いずれも量産可能になるのは2010年とされている。なお、この準備として2009年にFab 38で45ナノプロセスルールのバルクプロセスを用いたGPUの製造が行われる可能性もある。リーク電流を抑えるモバイル機器向けのHigh-k/メタルゲートを導入した32ナノプロセスルールも、2011年なら間に合いそうだ。Atom対抗の“新生”Bobcatも、APUも、このHigh-k/メタルゲートを導入した32ナノプロセスルールを利用する可能性は高いと思われる。
ノートPC関連の話が長くなってしまったが、Analyst Dayで示されたデスクトップPC向けCPUのロードマップには、これまでからの大きな変更はない。新世代CPUは2011年のLianoまで待たねばならず、しかもLianoはノートPCと兼用になる。ノートPC向けのCPUにしても、基本的にマイクロアーキテクチャは従来のままだと考えられる。次に大きな変化が訪れるのは2011年、ということになるだろう。
それまでは、動作クロックの引き上げやキャッシュメモリの増量といった量的な拡大、あるいはGPUとチップセットの改善による性能強化がAMDプラットフォームのフォーカスとなりそうだ。
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