“あれ”が“あの”販売店に“ない”理由:牧ノブユキの「ワークアラウンド」(2/2 ページ)
あるメーカーの製品がある販売店にない場合、販売店関係者が「俺たちの影響力」と自慢していたら、実はメーカーの“思惑”だったりするから、この業界面白い。
販売店側に取引を断らせるメーカーの策略
もっとも、表向きは価格が折り合わなかったという形でありながら、実はまったく違う事情という場合もある。よくあるのが、協賛金や応援販売などの要求を受け入れられないが故に、取引条件の変更を願い出て、その結果として取引停止に至るケースだ。販売店は、メーカーに対し、新店協賛という名目で何カ月かに1回、百万円単位の協賛金を要求したり、毎週末に応援販売の人員派遣を要求することがある。後者などは独占禁止法に抵触する行為だが、メーカーの自主的な派遣として普通に行なわざるを得ない雰囲気になっている。
メーカーとしては製品を売ってもらいたいが、これら協賛金や応援販売の負担に見合う売り上げがなければ、メーカーとしても金銭的、および、人的なコストを支払い続けることに疑問を持ち始める。加えて、応援販売がどのくらいの規模で行われているかは、店頭に行けばすぐ分かるので、「あの販売店では応援販売を行っているのに、うちの販売店では行っていない」という情報はすぐに伝わってしまい、価格の問題以上に、販売店からつけ込まれる要因になりやすい。
これとは別に、納期の要求が非現実的に厳しかったり、販売店側の都合で一方的に在庫を返品してきたりなど、道義的に好ましくない商慣習に対して、是正を求める議論がメーカーで高まっている場合もある。こうした複数の条件が重なることで、メーカーも「取引停止やむなし」と決断することになる。
ストレートに取引を断ると、いろいろとこじれやすいので、販売店が応じにくい取引条件の変更、例えば仕入れ価格の変更を装って、販売店側が取引を断るように交渉を誘導する。販売店は「メーカーが取引条件の変更を申し入れてきたので取引を打ち切ってやった」などと、自分たちを上の立場において勝ち誇るが、実はメーカー側の策略に乗せられているだけだったりする。
冒頭で述べたように、メーカーと販売店の力関係では販売店が圧倒的に上というのが、流通業界の常識だ。ところが「あの販売店に製品を取り扱ってもらわなくて構わない」とメーカーが開き直ると、力関係は完全に逆転する。取引がなくなってしまえば、販売店はメーカーに圧力をかけることができなくなってしまうからだ。
しかも店頭から在庫がなくなったにもかかわらず、ユーザーの強い要望でそのメーカーの製品を発注しなければならない事態がまれに発生する。こうなると、販売店からメーカーに「売ってください」と頼み込まなくてはいけなくなる。販売店の面目は丸つぶれだ。それゆえ、販売店は、たとえ通常の取引がなくなっても、いざというときは製品を扱えるように口座を残しておく。
経営レベルの「この販売店とは取引しない」は破壊的
メーカーがそれだけ開き直れるかは、その販売店がこれまで売っていた(あるいは売るであろうと見込んでいた)数量を、よその販売ルートでカバーできるかどうか、取引停止で余った人員をうまく活用できるかなど、さまざまな問題を解決する必要がある。特に、家電量販店の統合や提携が相次ぐ現在では、ある販売店と取引を停止することで、ほかの量販店との取り引きにまで影響が及ぶこともある。1人の営業マン、1つの営業所だけで判断できるものではなく、企業対企業という経営レベルの問題になりうる。その結果、穏便に済ますことも多い。
それだけ、経営レベルが下した「この販売店とは取引をしない」という決定が覆ることはない。家電、および、PC業界では「あの超有名メーカーの製品が、あの超大手販売店で取り扱っていない」というケースがあるが、この場合、経営レベルまで関係していると思って間違いない。ほかに理由があるとすれば、取り引きレベルとは別の理由、それこそ、親会社が対立しているとか、別の販売店と提携したことで競合関係にある別の販売店が取引を停止したとか、そうした事情もあるかもしれないが、どちらにしても経営レベルの判断であることに違いはない。
これが規模の小さいメーカーや販売店であれば、営業担当が売り込みに行けていないとか、販売数が先細っていて取り引きがないように見えるとか、単純な原因の場合もある。新興のメーカーならば、ネット直販に特化し、社内の人員もそれに見合う規模にしているケースも少なくない。
既存の大手メーカーが、既存販売店との関係を今すぐ切れることは、おそらくできないが、少なくとも、新しく台頭してくる会社では、協賛金や応援販売、返品の問題が付きまとう販売店ルートを避けて、立ち上げ時期から効率的な販売を模索するメーカーが多くなりつつある。既存の大手メーカーが販売店を無視できないのは、販売店向けの体制をすでに構築しており、いまから方向転換すると余剰人員が活用できない、企業規模を維持できないという理由が大きい。
そんな必要のない新興メーカーは、手間のかかる販売店との取り引きを断る傾向が、今後ますます増えていくはずだ。
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