不人気でも“カラバリ”が増えていくミステリー:牧ノブユキの「ワークアラウンド」(2/2 ページ)
発売済みの製品に、後からカラーバリエーションが追加投入されることはよくある。これは果たして売れている証拠だろうか? それともその逆なのだろうか?
「新製品の発売目標数を達成するため」という奇想天外なケースも
その一方、まったく売上動向とは関係なく、露出機会を増やすために故意にカラーバリエーションの発表時期をずらすケースも存在する。その目的は、ニュース記事になる回数を2回に分けることだ。まとめて発表すれば1回のニュースにしかならないが、分けるとその都度別のニュースとして扱われ、ユーザーの目にとまる機会も増える可能性があるからだ。もちろんニュースとしての価値が低ければ2度目以降は無視される可能性もあるが、たとえベタ記事でもニュースになればもうけものというわけだ。
意図的に発表の機会を分けるのではなく、何らかの製造上のトラブルで初回発表に間に合わず、後から追加発表をするケースもある。特殊なカラーにこだわるあまり、塗料の調合に失敗し、その色だけ試作の行程が増えたことで初回の発表に間に合わなかったというケースだ。こうして発表の機会が分かれたことによるケガの功名でニュースでの露出が増える場合もあり、意外とばかにならない。ちなみに当初から発売を予定していた場合、JANコードを見ればもとの製品と連番になっていたりするので、すぐに見分けがつく。
また、一風変わった理由としては、メーカー社内で「今年は○○個の新製品を出す」といった部署ないしは担当者個人の年間目標があり、それを実現するためにカラーバリエーションを無理にしつらえるというケースもある。要するに「新製品数の水増し」だ。そんなつまらない事情で、と笑うかもしれないが、会社からの評価に直結した年間目標という大きなマイルストーンがあれば、こうした途方もないことが意外とすんなり実現してしまう場合があるので恐ろしい。
カラバリだらけ=メーカーの開発力が低下?
何にせよカラーバリエーションの追加は「お手軽な新製品」である。もとの製品と仕様が変わらないため、ハードウェアの試験や対応機種の調査もいらない。説明書やパッケージもシール対応などでそのまま使える場合もあるし、Webの製品ページは1行増やすだけで済む。
すでに実績がある製品がもとになっているので販売数が逆算しやすく、大外れしにくいのもメリットだ。画期的な新製品で大ヒットを狙うよりは、こうしてコツコツ稼いでいくという風潮は、今では多くのメーカーにまん延している。これは決してPC関連の業界に限ったことではないはずだ。
言い換えると、本当の意味での新製品が鳴りを潜め、こうしたバリエーションばかりが投入されるメーカーは、開発スタンスが保守寄りになっている裏返しと見ることもできる。あるいは、中で強い影響力を持っていたキーマンの退社や移動といった事情で、開発力そのものが低下し、1から新製品を作れない状況に陥っている可能性も考えられる。
ある時期を境にこうしたバリエーションの投入に積極的に乗り出すようになり、本当の意味での新製品がパッタリ途絶えたメーカーがあれば、何らかの体制変更を疑ってみてもよいかもしれない。
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