不採用の理由は、PCに“詳しすぎる”から……だと?:牧ノブユキの「ワークアラウンド」(2/2 ページ)
PC周辺機器メーカーでは、あまりPCに詳しすぎる人は社員として採用しないか、より慎重に見極めるという不文律がある。人一倍の「こだわり」を持つ彼らが、現場に与える悪影響とは何か。
企画や開発の現場に過剰なこだわりを持ち込むスタッフ
営業はともかく、さすがに企画や開発側はPCにまつわる知識があったほうがよいだろう、と思いきや、むしろそちらも過剰な知識や思い入れがマイナスになるケースがある。
例えば、会社がWindows関連の周辺機器を全面的に展開しようとしているのに、「いや、僕はMacユーザーなので分かりません」とか、あるいはMac用の周辺機器を発売したら「僕は純正しか使わない人なので」などと、個人のこだわりを過剰に持ち込んでくるケースがある(特にMacユーザーをおとしめる意図はない。あくまで例だ)。
会社のロードマップに気乗りがしないという理由で適当な取り売り製品でお茶を濁し、むしろ自分がプッシュするカテゴリのほうが有望であるように見せるなど、おかしな政治力を発揮するスタッフもいる。
言うまでもなく、企画開発の段階でそうした論理を持ち込まれるとビジネスにならないわけだが、そもそもPC周辺機器メーカーはスタッフの数が少なく、特定のスタッフにまかせきりでクロスチェックが働きにくい。
企画担当が片手で足りるほどの人数しかなく、マーケティングも含めて特定のスタッフが最初から最後まで仕切っているような場合は、こうしたケースが意外に発生しやすいだろう。個人の好みが、企業の製品ロードマップを書き替えてしまうのだ。
こうしたスタッフは、彼らの得意分野ではそれなりの業績を上げていたりするので、会社としても変にヘソを曲げられて傷口を広げるよりはマシということで、視野が偏っていることは把握しつつも、その行動を黙認したりする。
その代わり、次に採用するスタッフはこうした変なこだわりを持たない人を……となるわけだ。冒頭で述べた「採用する場合もより慎重に見極める」の典型的なパターンだ。
これが企画や開発のスタッフの場合、ある程度のスタッフ数がいる会社であれば、彼らを特定のカテゴリにしばりつけておくことで大きなトラブルは回避できるが、こうしたタイプの人々が配属されると死活問題となりうる部署がある。それはサポートだ。ローテーションでどんな客と当たるか分からないユーザーサポートの部署で、マニュアルから逸脱してこうしたこだわりを発揮されると、大クレームに発展することもしばしばだ。
ところがユーザーサポートという部署自体は、PCの知識がないとやっていけない部署でもあるわけで、それゆえ採用や配属の際に当人の資質の見極めに神経を使う。
PCに詳しく知識も豊富だから、という理由で配属されたところ、ユーザー相手に他社製品をプッシュするような発言をしてみたり、自社製品と関係ないサポートに時間を費やして効率を悪くしたり、といったケースは無数に存在する。
さすがにCRM(顧客管理システム)がきちんと導入されているレベルの企業ならすべて履歴が残るので、昨今ではこうしたトラブルは起きにくいが、昔ながらの個人対個人の電話サポートを行なっている企業では問題が依然多い。
こうした人は、その知識量ゆえ「困ったらあの人に聞け」と社内では一目置かれるものの、絶対に出世はせず、アンタッチャブルな存在となっていくのが常だ。「責任者よりキャリアが長いユーザーサポートの古株スタッフ」がいないかどうか、知り合いにPC周辺機器メーカーの社員がいたら、に聞いてみるとよい。
むやみにこだわりを強調するのはマイナス面も
今回はPC周辺機器メーカーを例に紹介したが、おそらくこうした傾向は、PCに限らず嗜好(しこう)性の高い品を扱う業界であれば、どこも同じだろう。自分の知見を発揮することが相手にとってもメリットだと思っている彼らは、こうした勘違いを正さぬまま、社会人として年季を重ねていく。
むしろ早いタイミングで大きなトラブルを起こしたほうが本人の視野を広げるためにはよいのだが、会社はそれをよしとせず、どちらかというと「臭いものにはふた」という方向で話が進んでいくので、この種の問題は一向に解消されない。
その結果、人事の側としては、既に社内に存在するこうした社員を教育するよりも、むしろ今後採用する社員は「知識量よりもコミュニケーション能力を重視しよう」といった判断に落ち着く。もともと社員の新陳代謝が激しい業種ということもあり、玉突き状に押し出されてくれれば御の字というわけだ(なかなかそうはなりにくいのだが)。
こうした思惑が冒頭の「あまりPCに詳しすぎる人は社員として採用しないか、採用する場合もより慎重に見極める」につながるわけである。日本的といえば、極めて日本的な判断だが、なるほどと納得する人は多いのではないだろうか。
むしろ、このことは逆の視点で見ると、非常に示唆に富んだ話でもある。例えば、入社の面接で知識があることをアピールするのはよいが、ピンポイントの専門職への応募でもない限り、むやみにこだわりを強調するのはマイナスと受け取られる可能性もあるということだ。
知識やこだわりが人一倍あり、そうした業界にあこがれていながら、なかなか縁がない、あるいは入社にはこぎつけたものの、部署内で他のスタッフとのズレを感じるという人は、そうした点をいま一度振り返ってみてもよさそうだ。
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