「予告編詐欺」な製品が増えているワケ:牧ノブユキの「ワークアラウンド」(2/2 ページ)
画期的な製品だと派手に発表された製品を予約し、やっと入手できたと思ったら、まるで「その域に達していなかった」──こうしたケースが近年増えている。その理由は一体何か。そして、こうした地雷を踏んでおきながら「お布施」と割り切ってよいものか。
クオリティが低くてもメーカーが製品をリリースする理由
面白いことに、こうしたメーカーの同業他社に所属する人たちや、別の立場ながら業界に携わる人々は、これら予告編詐欺型セールスにはまず手を出そうとしない。なぜならユーザーからメーカーに支払われた代金は、お布施として次期製品のクオリティを上げることには直接つながらず、むしろ業界に悪い影響を与えることのほうが多いからだ。
ミもフタもない話だが、仮に製品の不具合をじっくり改善していて出荷時期が遅れれば、部品の支払いに当て込んでいた売上が期日までに得られなくなり、会社が不渡りを出す危険性が高まる。その製品だけに社運を賭けているベンチャー企業であればなおさらだ。それゆえ出荷をある一定の期日よりも先に延期できず、炎上覚悟で「その域に達していない」製品をリリースして、支払いに充てるための代金を回収するわけである。
一部のユーザーがお布施と呼んでいる購入代金の行く先はここであり、開発のクオリティ向上にはつながらない。むしろ完成品の低い製品をリリースしたにもかかわらず、「電話やメールの数はこの程度で済んだ」や「2ちゃんねるにスレは立ったが何本程度で鎮火した」、「TwitterやFacebookはコメントで埋まったが、放置しておいたところ何日後には下火になった」など、悪しきベンチマーク結果を提供するだけだ。
逆に同業者や業界内の人々は、資金繰りにまつわる事情は先刻承知であるうえ、購入によってこうしたセールス手法を許すことにつながり、その製品カテゴリ自体がユーザーや販売店から不信感を抱かれ、衰退につながる危険性があることをよく知っている。それゆえ(研究用に少数を個人名でオーダーするパターンは例外として)手を出すことはまずない。飛びつくのはほぼ、その筋のガジェットが好きなだけの、業界とは離れたところにいるユーザーだ。
一方で製品が「その域に達していない」ことが判明した後で、その製品をわざわざ入手して分解し、ここがダメ、ここはこうすべきとブログなどでネタにする物好きなユーザーは、逆に業界内にいる人のほうが多かったりする。これは誹謗(ひぼう)中傷が目的ではなく、純粋な製品への興味から行われることが多い。
そして次期製品のクオリティ向上につながるのは、人数的にはごくごく少数のこうした具体的な指摘だったりする。お布施と称する金額の問題ではないのだ。
クラウドファンディングに見る製品作りの理想像
こうして説明すると「そんなことを言っていては、新製品を真っ先に買うユーザーがいなくなってしまうのではないか?」という指摘も出そうだが、論点はそこにはない。問題なのは、こうした予告編詐欺型セールスが、効果のある売り方として認知され始めると、真っ当に製品を開発して不具合のない製品をリリースしているメーカーにとっては死活問題だということだ。
クオリティが低くてもとにかくリリースして代金を回収しようと考えるメーカーからすると、「お布施です」とおとなしく代金を払ってくれるユーザーは、まさにカモそのものである。後はその母数を増やすことに専念すれば、それだけでビジネスが回る仕組みが完成してしまう。そうなると真面目にやっているほうがバカを見る、という事態になりかねないわけだ。
ちなみに、製品開発の失敗や出荷遅延といったリスクを隠さず、あえて前面に出してユーザーを募った製品作りを行っているのが、KickStarterに代表されるクラウドファンディングビジネスである。
メーカー(といっても大半はベンチャーないしは個人だが)は、開発、製造やプロモーションに必要な資金を集めており、製品代金はそれらとははっきり分離されている。最近はすでに開発が完了した製品の予約販売の意味合いが強くなってきたため、すべてがそうとはいえないのだが、資金が前払いなことから、代金回収を優先するあまり不完全な製品を出荷するというケースはまず起こらない。
逆にプロジェクトそのものが破綻することもありうるが、それも含めてのサービスとして認知されているため、トラブルには発展しにくい。何より、これらプロジェクトのリスクが高いと判断すれば、ユーザーは複数のパターンの中から投資額を引き下げることができるし、投資そのものを行わない選択もある。それゆえユーザーが「リスクが高い」「実現性が低い」と判断したプロジェクトは、目標額に達することなく消えていく。シビアではあるが、あるべき姿はむしろこちらだろう。
過去に地雷製品を踏んでしまい「あれはお布施だったのだ」と自分を納得させたことがあるユーザーは、おそらくたくさんいることだろう。そうしたユーザーは、今後同じような製品の購入を迷う機会があれば、こうしたメーカーの事情を鑑みて投資するにふさわしいかどうか、一呼吸置いて考え直してみることをおすすめしたい。
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