「再発防止に努めます」が製品をダメにする?:牧ノブユキの「ワークアラウンド」(2/2 ページ)
発売した製品について、何らかのクレームに直面すると、担当者は「再発防止に努めます」と言わざるを得ない。しかしクレームの程度を考慮せずに再発防止に務めることで、業務フローにかかる負担は増え、そしていずれ製品開発へ影響を及ぼす事態へとつながっていく。
再発防止策が巡り巡って保守的な製品開発へとつながる
こうした事態を防ぐためにはクレームの程度を見極めることが何より重要なのだが、そうした仕組みが社内にないと、明らかに優先度合いが低いクレームまでもが製品開発に影響を与えるようになる。
サポートや営業担当からクレームの再発防止策を講じるように要求された結果、後継製品を開発するにあたり、他社がまだやっていない革新的な機能をつけるよりも、クレームを付けられないことを優先するようになってしまう。結果として、どこにでもあるような、無難な製品になってしまうというわけだ。
こうした開発方針は、最終的には企業としての姿勢に反映されやすい。製品開発の最終的な決済は、担当者個人ではなく取締役レベルの役職者が負う。それゆえ、革新的な製品より保守的な製品が優先され、突出した製品が決済段階でハネられることが続けば、担当者個人も保守的な発想で開発に望むようになり、それがいつしか会社全体のカラーになっていく……というサイクルだ。
ここで「だから日本企業は……」とか「その点で海外企業は……」という比較を持ち出すことはあえてしないが、何とはなしに傾向の内外格差を感じてしまうのは、筆者だけではあるまい。
特に製品のターゲット層と実際の販売先がずれると、こうした事態が発生しやすい。口コミで人気に火がつき、本来ターゲットでなかったユーザーにまで製品が届き始めた場合や、営業が大口案件に目がくらんで製品の理解度が低い販売ルートを新規開拓してしまったような場合、これまでならわざわざ取扱説明書に書かなくともユーザーに伝わっていたポイントが伝わらなくなり、クレームに発展しやすい。
その再発防止策として、取扱説明書は分厚くなり、さらに次期製品からはリテラシーが高いユーザー向けの機能が姿を消し……と、対策がエスカレートしていくわけだ。
かつてWindows 95ブームの頃、PCが飛ぶように売れる一方で、マウスの動かし方すら分からないユーザーからの問い合わせがサポートに殺到したのは、その一例と言える。
また最近では、使い方が分からないとユーザーから批判が殺到した電子書籍リーダーが、次期モデルから紙のガイドを添付し始めたこともあった。この製品の場合、当初のロットがまともに動作せず本体内の電子マニュアルを参照することすら困難だったという事情もあるが、トラブルが発生した際にネットで解決策を調べられない(あるいはそのための環境が自宅にない)ユーザーにまで製品を売ってしまったのも、1つの要因と言っていいだろう。
取扱説明書を見れば過去のクレームが分かる
ちなみに、こうしたケースにおいて、企業が過去にどれだけのクレームを受けてきたかを一目で見分けられるバロメーターがある。それは「取扱説明書」のボリュームだ。取扱説明書の各ページの下段や欄外に記された注釈は、過去のクレームをもとに、ユーザーから突っ込まれるであろうクレームを先回りして制するためのものだからだ。
中には、本文がほんの数行にもかかわらず、注釈は十何行もあるといった本末転倒な例もあるが、それだけの量でも載せざるを得なかった大トラブルが過去にあったと解釈すると、同情もしたくなる。
もちろん、ユーザーが安心して使える製品であることは重要であり、ユーザーにとって不利益につながる仕様は非難されても致し方ないだろう。しかしその一方で、ユーザーによる取るに足らないクレームだったり、株主総会などでの重箱の隅をつつくような追求が、巡り巡って製品開発を萎縮させ、画期的な製品および機能を生み出しにくくなっているのであれば、決して笑い事ではないように思うのだが、いかがだろうか。
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