Appleの新しい方向性――4つの発表と3つのトレンドを林信行が読み解く:WWDC 2015で訴えた人間尊重と文化創造(2/5 ページ)
WWDC 2015の基調講演を現地で見た林信行氏がその発表内容からこれからのアップルを読み解く。
ディテールのこだわりが満載の「OS X El Capitan」
さて、それでは実際に基調講演で発表された内容を軽くまとめてみよう。まず、Mac用のOSとしてこの秋にリリース予定の「OS X El Capitan」が発表された。
画面の見た目的には現行のOS X Yosemiteと大きな差異を感じさせない。長くMacを使ってきた人は、LionからMountain LionやLeopardからSnow Leopardといった進化に似た、リファインメント(洗練)版のOSという印象を持つかもしれない。
そしてこれらの進化を経験してきた古株ユーザーたちは、実はこうした洗練版のOSのほうが、目立つ新機能が満載のメジャーOSアップデート以上の喜びと愛着を与えてくれることを体験として知っているはずだ。安定度が劇的に向上し、動作が軽快になり、そうでなくてもよかった使い心地がキュっと引き締まり、すでに搭載されていた機能に「まさにこれが欲しかった」と思わせる機能が追加されて利用頻度がアップする。
Macの新OS、「El Capitan」の公式ページに掲げられたコピーは、このことを端的に表している「クリックするたびに、もっと好きになります」。OS Xと言えば、常に画面の上でも印刷物の上でも日本語を最も美しく表現し続けてきたOSだが、公式ホームページでは、基調講演では紹介されなかった新しい日本語フォントの追加や新しい日本語入力の方法についても紹介されている。よくまとまっているので、詳しく知りたい人はぜひそちらを見てほしい。
ただ、アップルがEl Capitanで狙ったことはただ2つ、「Macの体験の向上」と「パフォーマンスの向上」だ。
体験についてはカーソルが画面上のどこにあるか探そうと左右に振ると、その間だけ拡大表示される、という細かな工夫から、すべてのメモ情報をここに集約したくなるほど劇的に進化をした「メモ」アプリ、全画面表示状態のアプリの切り替えをよりスマートに統合した新しいMission Controlなど「なるほど、そうきた」であったり「まさにこれが欲しかった」といった変更が目白押しとなっている。
しかし、日々の体験を向上する要素として、最も大きくものを言うのは、10倍になった画面描画パフォーマンス、1.4倍速くなったアプリの起動、2倍になったアプリの切り替え速度と最初のメールを表示するまでの速度、そして4倍になったPDFの表示速度だろう。
パソコン業界では、しばしば、パフォーマンス向上はCPUやGPUの高速化で行われるものと思われがちだが、それは偏狭なものの見方だ。どんなに性能が高いハードウェアを使っても、その上で動かすソフトの質が低ければ、動作はもたつき、無駄に熱を発してバッテリーを浪費する。
アップルは洗練版のOSを出す度に、ソフトの側の無駄や不効率を整理し、まるで新しい機種に乗り換えたかのようなパフォーマンス向上でユーザーを喜ばせてくれる。この洗練作業を行わず、ひたすら新機能の追加や大型改変ばかりを続けると、OSは収拾がつかない状態になっていく。だから、アップルはあえて立ち止まり洗練版OSをつくるのだ。
そして、その上でじわじわと時間をかけて効いてくる「次の戦略への布石を打ち込んでくる」。El Capitanでそれに当たるのが冒頭でも触れたインテリジェンスを持つように進化した「Spotlight」ではないかと筆者は思っている。
最新OS X、El Capitanでは、Spotlight検索を呼び出し、そこに「4月に高尾さんから来たEメール」であったり、「昨日作った予算に関するプレゼン」などと打ち込むことで面倒な検索結果の精査といった手順を飛ばしていきなり欲しい情報を引き出すことができる。
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