家電量販店の明暗は思わぬ場所にも現れていた――メーカー関係者が語る“熱意の差”:牧ノブユキの「ワークアラウンド」(2/2 ページ)
家電量販店は業績不振と言われるが、大きく減収減益したところもあれば、健闘しているところもある。その明暗は、あるイベントでの状況とほぼ一致していると、メーカー関係者の間でささやかれている。
スタッフの取り組み姿勢に差が生まれる理由
では、なぜ家電量販店ごとに、こうしたスタッフの姿勢に差が生まれるのだろうか。実に興味のあるところだが、かといって当のやる気のない家電量販店のスタッフに「どうしてやる気がないのですか?」と尋ねる機会があったとしても、まともな答えが返ってくることは考えにくい。
なぜなら彼らは他の家電量販店における活気のある勉強会の様子を見たことがなく、おそらく自覚そのものがないからだ。それゆえここでは、特定の家電量販店で勉強会が盛り上がらない要因を、当たらずといえども遠からずというところで、1つずつ列挙していくことにしよう。
まず1つは、製品の守備範囲が広すぎるために、「広く浅く」でしか知識を身につけられないことが挙げられる。売場に割り当てられたスタッフの数が少なく専門分野を分担できる状況にないこと、またスタッフの離職に伴う担当替えや異動が頻繁に発生するため、知識をつけてもすぐに無駄になるという2つの要因が、その背景にあると考えられる。
守備範囲が広く、身につけなくてはいけない知識が大量にあり、また身につけても異動などですぐに無駄になりかねない状況であれば、個別の製品の特性にまで踏み込んだ知識に興味を示さないというのは、話の筋は確かに通っている。
もう1つは、基本的に売れ筋製品しか販売しないというスタンスの家電量販店の場合、製品知識がさして必要ではないということだ。売れ筋製品を販売するための最小限のポイントを知っておけば大抵の接客は事足りるので、販売マニュアルにはざっと目を通すが、競合製品の特徴や、バックボーンに関する知識には興味を示さないというわけである。質問に答えられる知識を基礎から身につけるには、その時点ですでにレベルが違いすぎて、対処のしようがないというわけだ。
それでも接客を行っている以上、客からの難しい質問についても誰かが答えなければ接客が成立しないわけだが、彼らには“奥の手”がある。それは、休日を中心にメーカーから派遣されてくる応援販売のスタッフだ。つまり、説明が必要な製品はメーカーの応援販売スタッフに説明させればよく、それゆえ自分たちは知識を身につけなくとも構わないという発想である。
休日はこうしてメーカーの応援販売スタッフに接客を任せて、自分たちはレジ打ちに専念し、平日だけは致し方ないので販売マニュアルをオウム返しするレベルで接客に応じる、という対応になる。
こうした状況であっても、全社的に売上や利益がきちんと上がっているのであれば、そのようなスタイルなのだと抗弁することも可能だったろう。しかし現実はそうではなく、決算の明暗とリンクしているように見えることはなかなか示唆的であり、また体質にかかわる問題ということもあって短期的な改善が難しいことを感じさせる。うまく行っていない家電量販店にとっては、先行きが暗い状況と言えそうだ。
関連キーワード
アクセサリー | 周辺機器 | 牧ノブユキの「ワークアラウンド」
関連記事
- 牧ノブユキの「ワークアラウンド」バックナンバー
牧ノブユキの「ワークアラウンド」:人気機種のアクセサリで勝手に商売、メーカーはなぜ怒らない?
PCやスマホ、タブレットが新しく発売されると、それに合わせてサードパーティ各社から周辺機器やアクセサリが発売されるのは、この業界ではすっかり見慣れた光景だ。本体メーカーは、自社製品に関係する製品を勝手に作って売られても怒らないのだろうか。牧ノブユキの「ワークアラウンド」:「お客様の声から生まれた製品」が世界を変えられない理由
「お客様の声から生まれた製品」といったフレーズはよく耳にするが、後世に名を残すような大ヒットの電気製品となると、なかなか思いつかないのではないだろうか。牧ノブユキの「ワークアラウンド」:店頭に現物を置かない「カード展示」は“諸刃の剣”か?
家電量販店では、製品の現物を展示せず、型番や価格が書かれた「カード」だけを並べている風景をよく見かける。このカードによる展示はさまざまなメリットがある一方、自らの首を締めかねない諸刃(もろは)の剣でもあるのだ。牧ノブユキの「ワークアラウンド」:「再発防止に努めます」が製品をダメにする?
発売した製品について、何らかのクレームに直面すると、担当者は「再発防止に努めます」と言わざるを得ない。しかしクレームの程度を考慮せずに再発防止に務めることで、業務フローにかかる負担は増え、そしていずれ製品開発へ影響を及ぼす事態へとつながっていく。牧ノブユキの「ワークアラウンド」:「この人気商品、他の売場でも販売すればいいのに」が実現しないワケ
同じ量販店でPC売場のマウスを文具売場に持って行くなど、「これまである売場で展開していた製品を、別の売場で展開する戦略」は、簡単そうに見えて意外に難しい。そこには価格のズレやバイヤーのプライドなど、さまざまな要因が渦巻いている。牧ノブユキの「ワークアラウンド」:「他店価格よりも高ければお知らせください」は一石二鳥のワザ?
家電量販店には「地域最大級」「他店価格よりも高ければお知らせください」「オープン価格」など、分かるようで分からないような言葉が存在する。こうした曖昧な表現はなぜ生まれて定着したのだろうか。牧ノブユキの「ワークアラウンド」:店頭の陳列面積で売れ筋製品が分かる……というわけでもない事情
量販店の棚を見ていると、1つの製品が1列だけ並んでいることもあれば、複数の列にまたがって陳列されている場合もある。複数列にまたがっている製品はイコール売れ筋と思いがちだが、実はケースバイケースだったりすることをご存じだろうか?牧ノブユキの「ワークアラウンド」:下取りされたスマホはどこへ行くのか? 周辺機器の買い替えキャンペーンと何が違うのか?
新製品の拡販につきものの下取りキャンペーン。ここで引き取られた製品は、その後どのような末路をたどるのか。iPhoneなどのスマートフォンのほか、現物の引取が発生しないことが多い、PC周辺機器の買い替えキャンペーンについても併せて見ていこう。牧ノブユキの「ワークアラウンド」:妙に店頭でプッシュされる製品、果たしてベストな選択なのか?
量販店の店頭で目立つ「この製品売れています!」という貼り紙。そう言われると気になってしまうが、売れているからといって、必ずしも製品が優れているとは限らない。そこには、販売店が特定の製品を優先的に売るようになる仕組みが隠されているのだ。牧ノブユキの「ワークアラウンド」:想定外に「安っぽく見える」製品ができてしまった……どうやって売る?
ようやく完成した製品の見た目がチープで、売価が高く感じられるというのは、メーカーが頭を悩ませる問題の1つだ。当然、メーカーはあの手この手を使って、何とかして拡販しようとする。その手法を見ていこう。牧ノブユキの「ワークアラウンド」:「取説いらずの使いやすい製品」が日本で生まれにくい理由
IT関連の機器は「学ばなくてもすぐ使える」のが理想だ。しかしながら、ハードウェアの開発を行っている現場では、こうした考え方はまだまだ浸透していない。そのズレはどんなところにあるのだろうか。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.