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AIをクラウドからエッジへ Microsoft開発者イベント「Build 2018」を読み解く鈴木淳也の「Windowsフロントライン」(2/4 ページ)

米Microsoftの開発者会議「Build 2018」では、近年同社が注力する「Intelligent Cloud」と「Intelligent Edge」の最新動向が語られた。

翻訳もKinectもIntelligent Edgeでブラッシュアップ

 Intelligent CloudとIntelligent Edgeについては、現在進行形のプロジェクトのアップデートも発表した。

 DNNの導入により機械翻訳が「人間に近づいた」という話題は、特に多くの人々にとって分かりやすい成果の1つといえる。

 膨大な処理をこなすことで精度が向上するため、基本的にはデータセンターのリソースを活用できるクラウドでの動作が望ましい翻訳分野だが、一方で「翻訳機能を出先で利用する」という用途では「エッジ」の活用は避けて通れず、これがエッジの盛り上がる理由となっている。

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 翻訳そのものの処理だけでなく、元となる文章を入力する音声認識もこの点では重要であり、エッジ処理のさらなる強化が期待されている。これは周囲にノイズや異なる音声が混入しやすいスマートフォンやスマートスピーカーでは重要な仕組みで、Microsoftではさらに「ドライブスルーでの注文用マイク」といった用途での活用も例に挙げている。

 いずれにせよ応用分野は広く、同社はこの仕組みを開発キットとして切り出して提供していく計画だ。


Microsoftが過去2年間で達成したAI分野におけるマイルストーン

中国Rooboとの提携で、スマートスピーカー型の音声認識デバイスや各種入力装置の開発キットも提供

 画像認識の分野では、光の反射を使った深度センサーによる周辺認識が可能なセンサーの集合体「Project Kinect for Azure」を発表した。イメージ的にはHoloLensのセンサーを切り出したようなもので、周囲の空間マッピングの他、物体の動き検知、特に顔や腕の動き解析による各種操作や状況判断が可能になる。


深度検出も可能なエッジデバイス向けカメラモジュール「Project Kinect for Azure」

 オリジナルの「Kinect for Xbox 360」とHoloLensともに米Microsoftテクニカルフェローのアレックス・キップマン氏のプロジェクトという点で共通だが、この要素技術は既にさまざまな業界に浸透して活用が進んでいる段階だ。

 例えば小売業界では、人の動きによって表示内容などの挙動を変える「スマートシェルブ(商品棚)」や、接客応対における顧客満足度調査において、このKinectとアプリケーションを組み込んだ実店舗がある。

 残念ながらKinectのデバイスそのものは2017年に生産終了がアナウンスされているが、Microsoftはこうした産業向け用途を中心にIntelligent EdgeとしてのKinectを復活させ、主に組み込み製品として提供していくのだと考えられる。

Bot FrameworkとCognitive Servicesもアップデート

 2年前のBuildで発表されたBot FrameworkとCognitive Servicesもアップデートを重ね、少しずつ進化している。詳細はBot Framework Blogにまとまっているが、「Bot Builder SDK(v4 preview)とエミュレータの提供」「LUISを使った多言語認識」「QnAMakerによるFAQ型のチャット対応」「Bot Builder SDK v4 previewとProject Conversation Learner SDKの提供」などを発表した。

 また「Project Personality Chat」により、チャットボットの対応を「プロフェッショナル」「フレンドリー」「ユーモラス」といった具合にいずれかのキャラクター性を持たせることも可能で、用途に応じて使い分けられるようになっている。


2年前のBuild 2016で発表されたBot Frameworkはさらに進化し、FAQ型問答の構築ツール、多言語認識、キャラクター性の付与など、さまざまな新機能が追加されている

BrainwaveはAzureサービスの1つとして提供へ

 「Project Brainwave」にも進展があった。これはDNNをGoogleのTPU(Tensor Processing Unit)のような専用プロセッサではなく、FPGAに学習済みモデルとして展開する仕組みで、以前のレポートでも紹介したように、Microsoft内部のプロジェクトとして研究が進められていたものだ。

 デモストレーションでは機械翻訳などでの活用を紹介していたが、これを「SDN(Software Defined Network)」に応用するためにSmart NICとして実装し、Azureデータセンターとして全面展開したという話は、Project Brainwaveでの興味深いポイントの1つだ。

 さらにはハードウェアマイクロサービス(HWMS)のようなCPUを介さない高レスポンスのマイクロサービス実装に活用したりと、MicrosoftのクラウドサービスにおいてFPGAは大きな位置を占めている。今回、これがAzure Machine Learningの仕組みに組み込まれ、一般の目から見て普通に利用できるようになった。


これまで内部プロジェクトとして進められていたProject Brainwaveは、Azureサービスの1つとして外部提供へ

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