連載

2018年のパーソナルコンピューティング動向を冷静に振り返る本田雅一のクロスオーバーデジタル(4/5 ページ)

クラウドAIとエッジAIの世界において、「パーソナルコンピューティング」の定義は揺らぎつつある。2018年、ユーザーを取り巻くデバイスとサービスの環境はどう変化したのだろうか。

具体的には言わなくとも「われわれは違う」と伝えたいApple

 そしてFacebookやGoogleに対し、「最もプライバシーを順守しているのは我が社である」と言ってはばからないのがAppleだ。

 Appleのティム・クックCEOは、Facebookの個人情報が不正利用された問題が起きた際、プライバシー保護の姿勢をあからさまに批判したものの、Googleに対して直接的な批判はしていない。

 しかし、Appleは一般論として「個人情報を収集して利益に換える事業」に対して、繰り返し批判をしてきた。欧州委員会がGDPRを施行し、EU域内消費者の個人情報保護を強く打ち出してからは、さらにその語気を強めている。個人情報を使って商圏を強化、拡大している企業に、自分たちの管理する地域で自由にはさせないとばかりに奮闘しているのだ。

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 10月24日(現地時間)、クック氏はベルギーのブリュッセルで開催された第40回データ保護プライバシー・コミッショナー国際会議(ICDPPC)にて、「この状況をむざむざと見過ごすべきではない。これは監視なのだ。膨大に積み重なった個人情報は、それを収集する会社だけを豊かにし、利用者であるわれわれを不快に、そして不安にさせる」とスピーチした。

 言うまでもないことだが、Appleはそのほとんどの収益をハードウェア製品の売り上げから得ている。サービス事業も伸びてはいるが、いずれもApple製ハードウェアをより便利、快適に使うための脇役でしかない。


iPhoneをはじめ、Appleはそのほとんどの収益をハードウェアの売り上げから得ている

 それ故に、Apple製ハードウェアはデフォルトでクラウドにパーソナルデータをアップロード、分析する機能を実装していない(唯一の例外は音声認識だろうか)。例えば、写真の画質を向上させたり、あるいは背景と被写体を分離したりする画像認識はカメラ上で、写真を分類する処理は端末側で行っている。

 極めて単純な処理だが、Apple Watchは通知に対して直接応答したり無視したりといった処理が行え、このときの操作は機械学習モデルに反映され、使うほどに振るまいが最適化されるという。

 もちろん、Appleも「iCloud」というクラウドサービスを用意しており、またGoogleやMicrosoftなどのサービスにiOSから接続することもできる。つまり、利用者自身がクラウドにデータをアップロードすることに関して制限は加えていない。批判はあくまでもユーザーの行動データを広告価値に換えることに対して、明確な線引きをしていないことに対するものだ。

Googleは機能と利便性で押し切ることができるか

 本業がハードウェア製品と自社ハードウェアに関連したサービスであるAppleは、広告に依存した事業スタイルを採る必要が全くない。大多数のキャッシュフローは、自社製品やサービスの売り上げから得られたものだ。

 一方でGoogleは10億以上のユーザーが存在するサービスを8ブランドも保有している。インターネットにアクセスする際にはもちろん、Androidを用いる場合に彼らのサービスは必要不可欠であり、その支配力は教育現場やライトなオフィスワークの領域にまで広がりつつある。

 このまま大きな問題に至らず、ただひたすらに低コストに利便性だけを追求していき、決して市場での支配的立場を乱用しなければ大きな批判を受けにくいとはいえ、データ利用規則をうまくかいくぐるため、エッジAIを強化した上で、ユーザーにエッジで収集したデータをクラウドにアップロードする手順を簡素にし、一度ユーザーに許可を願い出て「OK」をもらうだけでエッジとクラウドのデータを統合できるような仕掛けを作るだろう……とみている。

 一方で冒頭で触れた通り、SoCの進化の方向性は、かなり定まってきたのではないだろうか。

 端末の機能としてニューラルネットワーク処理を強化したいAppleはもちろん、GoogleにしてもエッジAIは重要な位置付けにある。当面の間、エッジでのニューラルネットワーク処理能力を競う時代が続くだろう。半導体の微細化などによるトランジスタ数の増加の多くが、このジャンルに投入されると予想する。

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