激化するオンライン vs. リアル店舗のはざまでMicrosoftが生き残るためには:鈴木淳也の「Windowsフロントライン」(3/3 ページ)
WindowsやMicrosoft関連の情報を日々追いかけている本連載。鈴木淳也氏がPC市場とMicrosoftの今とこれからを考える。
変化するMicrosoftのPCビジネス
PC市場の縮小で困るのはOEMメーカーだけでなく、他ならぬMicrosoft自身が一番影響を受ける。以前と比較してWindowsライセンス料の売上全体に占める比率は減ったとはいえ、関連収入が減る一方になるからだ。
12月に「Windows 10の“おせっかい機能”はマネタイズのため?」という記事の中でも紹介したが、MicrosoftがWindows 10でユーザーの望まぬサードパーティー製アプリを勝手にインストールする機能は、新たなマネタイズ手段の1つといわれており、実質的に“無料化”しつつあるWindows OSをいかに収益に結びつけるかが重要になっている。そのため、企業ユーザーにはより高機能な新しいサブスクリプションサービスを用意し、コンシューマーには前述のような「ちょっとした外部収入」を得られる手段を用意するといった具合だ。
企業向けの場合は明確で、Windows 10 ProよりはWindows 10 Enterprise、中でも付加機能やライセンスの追加が行われるE3 & E5という上位版へユーザーを誘導することだ。近年のMicrosoftはOffice 365などのクラウド製品を優遇し、サブスクリプションによる継続課金モデルへとユーザーを誘導していることは多くが知るところだが、これにさらに月額料金を少しだけ上乗せするだけでセキュリティや管理機能が強化される「Microsoft 365」というサービスがある。
Microsoft 365 Enterprise E3およびE5により、さらに高度なWindows Defenderの機能が利用可能になる。このMicrosoft 365は特に中小企業開拓を狙っているといわれ、「企業のIT環境もモダナイズする」をキーワードにセールスを展開している。
Windows 7は2020年1月に延長サポートが終了するが、これを2023年まで有償で継続サポートする「Windows 7 Extended Security Updates(ESU)」というプログラムがある。Microsoft 365 Enterprise E3/E5の顧客であれば、2020年以降も「Windows Virtual Desktop(WVD)」というAzure上で動作するクラウド版デスクトップ環境を使ってWindows 7の継続利用が可能で、しかもこのESUの仕組みが追加料金なしで利用できる。
ただ残念ながら、2018年内にもパブリックプレビューが提供予定だったWVDは、開始時期が2019年第1四半期までずれ込んでおり、もう少しだけ待つ必要があるという。
そして最近話題になっているのが、「Microsoft 365 for Consumer」だ。ZDNetのメアリー・ジョー・フォリー氏が12月12日(米国時間)に報じているが、現在Microsoftは「Windows 10+Office 365+セキュリティ+α」の機能がバンドルされたサブスクリプションサービスの一般ユーザー提供に向けた準備を進めているという。
もっとも、現状でWindows OS自体に満足しているユーザーも多く、より使いこなすためにOffice 365を契約しているユーザーがいたとしても、「これ以上のサブスクリプションはちょっと……」という人が少なくないはず。ジョー・フォリー氏は「すべてのWindows 10ユーザーに強制するものではなく、あくまで追加サービス」としているが、Office 365でさえ導入にちゅうちょするユーザーがいる中、どのような仕掛けで「Microsoft 365 for Consumer」を訴えていくのかは気になるところだ。
こうしたMicrosoftのビジネスモデルの変化からも分かるように、PCビジネスは単純に「作って売る」というものではなくなりつつある。いかにユーザーと長く付き合い、食い込んでいけるかというサポート&サービス中心の世界へとシフトしつつある。Amazon.comなどオンライン事業者の台頭でユーザーとの接点となるチャネルが先細る状況だが、PCメーカー再編がほぼ完了した日本のPC業界の今後を、2019年も引き続きウォッチしていきたい。
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