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オリジナル製品の夢を開発担当者が諦めるまで牧ノブユキの「ワークアラウンド」(1/2 ページ)

PC周辺機器やアクセサリーメーカーの開発担当者の中には、取り売りビジネス中心の現状に嫌気が差し、オリジナルの製品を手掛けるために転職したり、ベンチャーを立ち上げたりする人も少なくない。しかしこれらの試みは往々にして失敗し、彼らは夢を諦めていく。

 今や国内で流通しているPC周辺機器やアクセサリーのほとんどは、海外製品の取り売り(海外の製品を買い付けてきて、自社のロゴやパッケージを付け、自社製品として販売するケース)だ。デザインや設計の段階から自社で手掛けたオリジナルと呼べる製品はごく限られている。

 国内でしか流通していない本体製品をターゲットとした周辺機器やアクセサリーは例外だが、昨今の海外メーカーの台頭により、そうした国産の製品そのものが減ってきているのが現状だ。

 もっとも、PC周辺機器やアクセサリーメーカーの開発担当者の中には、こうした現状を危惧している人も多い。「自分たちは取り売りビジネスをするためにメーカーに入社したわけではない。自分たちでオリジナルの製品を作りたい」というわけである。

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 そうした人は、開発担当としてのキャリアをスタートしたメーカーを何年か勤め上げた後、自分が作りたい製品を作るために、開発の自由度が高そうな(多くの場合は、元のメーカーよりもやや規模が小さめの)メーカーに転職したり、ベンチャーを立ち上げたりすることも少なくない。

 しかしこれらの試みは、高い確率で失敗する。その理由について見ていこう。

大手にあって小規模メーカーやベンチャーにないもの

 小規模なメーカーもしくはベンチャーで製品開発を行う利点は、製品化へのハードルが低いことだ。大手メーカーのように、複数の担当者によって毎月の企画会議に何十個もの製品が持ち込まれ、相当数がボツになるのとは全く状況が異なる。取り売りではないオリジナルの製品も、熱意があれば企画を通しやすいし、少なくとも大手のように、本命を通すためにダミーの企画を大量に用意しなくても済む。

 しかし、そうした利点があるにもかかわらず、転職してきた開発担当者が、その小規模なメーカーもしくはベンチャーで、自分たちが作りたいと思った製品を開発し、矢継ぎ早にヒットを飛ばすケースはまれだ。もちろん短期的に見て、単発的な成功事例が生まれないわけではないのだが、長期的には十中八九「こんなはずじゃなかった」という思いにとらわれるようになる。

 その理由として、小規模なメーカーやベンチャーは往々にして販路が少なく、いざ製品を作っても売れるロットが劇的に少ないことが挙げられる。売れる数が少ないと外注先からの見積条件が不利になり、どう考えても市場に受け入れられない価格になったり、あるいは価格を下げるために何らかのギミックを妥協したり、性能を落とさざるを得なくなったりする。結果として、それらの製品はますます売れなくなり、次の企画が通りにくくなる悪循環に陥る。

 そうなると、開発担当者としては一定の成果を上げるために、利益率が高く、手が掛からない取り売りに手を出さざるを得なくなり、当初の志は次第に忘れ去られていく。大手のサードパーティーメーカーから小規模メーカーやベンチャーに転職した開発担当者は、例外なくこのジレンマに苦しめられる。大手ならではの販路の広さおよび販売力の強さを、その時点で思い知ることになるわけだ。

オリジナルが売れるとは限らない

 そしてもう一つ、開発担当者のモチベーションを下げるのが、自らのアイデアをもとにこだわりを持って企画設計したオリジナル製品と、海外製の取り売り製品とで、実は売れる量にそれほど違いはないという事実だ。

 開発担当者は皆、自らのアイデアをもとに企画した製品が世間の隠れたニーズをつかんで大ヒット、というストーリーを(少なくとも当初は)夢見ている。しかし現実的に、何年にもわたって温めたアイデアを苦労の果てに具現化したオリジナルの製品が、海外の商品見本市で見つけてきた出来合いの製品よりも売れるかというと、そんなことは全くない。

 むしろ後者の方が幅広いニーズをつかんでいて何倍も売れることもしばしばで、辛うじて数量ベースで同数売ったとしても、海外製品は既存の金型を使える分原価が安く、会社にもたらす利益ベースではそちらが圧倒している。つまり会社への貢献度でいうと、取り売り製品の方が圧倒的に上位とみなされるわけだ。

 それ故、当初はオリジナルにこだわりを持っていた開発担当者も、いつしか他社が目を付けていない海外製品の発掘に心血を注ぐようになる。オリジナル製品は、出したとしてもせいぜい年に一つか二つ、残りは全て海外製品の取り売りといった具合に、割合が変化していく。これならばもともといた大手の方が販売力もあり、桁違いのロットをさばくこともできたのに……と思っても、後の祭りである。

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